物理学11問クイズ!

Q1. 星と星(あるいは銀河と銀河)のあいだの空間には何があるでしょうか?
1.エーテルがある
2.希薄なガスがある
3.何もない(完全な真空状態)
A1. 2. 希薄なガスがある

このような空間(星間空間、銀河間空間)には、それぞれ平均で1個/cm3、0.00001個/cm3程度のガス密度をもつ星間物質、銀河間物質が存在します。地球上の大気密度(1019個/cm3)と比べると、ほとんど真空といってもよいレベルですが全く何も無いわけではありません。星間?銀河間物質は星や銀河のように自ら明るく輝くことがないため、可視光で直接観測することは困難です。そこで背後にある明るい天体(星やクェーサーなど)を観測することにより、「影絵」のような原理を使って調べられています。この方法を使うと宇宙規模の物質変遷史(たとえば皆さんの体を構成している様々な元素の量が増えていく様子)などをたどることができます。
ちなみにエーテルは光が伝播するために必要な仮想的な媒質であり、かつては宇宙を満たしていると考えられていましたが、相対性理論の確立によって現在では不要であると考えられています。
Q2. 電子が10gのカブトムシとすると、クォークの中で一番重いトップクォークは次のうち、どれに相当する?
1. 約100gのリス
2. 約84㎏のヒト
3. 約3.5トンのゾウ
A2. 3. 約3.5トンのゾウ

ちなみにダウンクオークは約100gのリス、チャームクォークは約26㎏の子供、ストレンジクォークとミューオンは約2㎏のネコ、ボトムクォークは約84㎏のヒト、タウオンは約35㎏の子供に相当します。3種類のニュートリノ(電子ニュートリノ、ミューオンニュートリノ、タウオンニュートリノ)の質量については、アリの脚くらいの重さ(約0.001mg)だと推測されます。
基本粒子はヒッグス粒子との相互作用を通じて質量を獲得したと考えられていますが、「こんなにも質量が異なるのはなぜか?」は大きな謎(質量階層性の問題)で、その解明に向けて現在盛んに188bet体育_188bet备用网址がなされています。この他にも、素粒子の標準理論は謎で満ち溢れています。
Q3. 青色発光ダイオードの材料に含まれるガリウム原子の最も内側を周回している電子の速さは、光速に対してどのくらい?
1. 光速の0.23%の速さ
2. 光速の2.3%の速さ
3. 光速の23%の速さ
A3. 3. 光速の23%の速さ

われわれの身の回りにある物質は原子によりできています。原子は、さらに細かく見れば、原子核とそのまわりを周回する電子によりできています。ガ リウム原子の場合、それら電子の中で最も内側を周回している電子の速さが、光速のなんと23パーセントにも達しているのです。188bet体育_188bet备用网址にも例えば、 携帯電話やハイブリッドカーなどにも利用されているネオジム磁石(非常に強力な永久磁石)に含まれるネオジム原子の最も内側をまわる電子は、光速 の44パーセントの速さで周回しています。ものが光速に近い速さで動くとき、アインシュタインの特殊相対性理論の効果が顕著に現れます。特殊相対性理論の効果は、われわれの回りの身近な物質の性質にもはっきりと現れているのです。
Q4. 右手と左手は鏡映の関係にありますが、電気や磁気の世界は右手が特別であるように出来ている?
1. 右手が特別である。
2. 左手が特別である。
3. どちらも特別でない。
A4. 3. どちらも特別でない。

驚くかもしれませんが、電気や磁気の世界では、右手、左手の区別はないことが知られています。これは、電気?磁気の世界をビデオで撮って、左右入れかえて上映しても、誰もそのおかしさに気がつかないことを意味します。
ですので、電流が流れるとき、右ネジの法則で磁場ができるというのもひとつの取り決めでしかありません。左ネジの法則で磁場ができると考えても良いのです。
さらに言うと、右ネジや左ネジを使わなくても、電気や磁気の世界を記述することができます。
Q5. 真空中の光の速さは約2.99x108 m/sですが、これよりも速く進む光は存在する?
1. 存在する。
2. 存在しない。
3. 存在したり、しなかったり。
A5. 3. 存在したり、しなかったり。

「存在したり、しなかったり」というのは、なんて曖昧な答えなんだろうと思ったかもしれません。なぜ曖昧な答えになるかというと、光は電磁波と呼ばれる波として考えるからです。波の速度を表すものとして、主に3つあります。波の山または谷など、ある1箇所が移動する速度である"位相速度"、波がパルスとして伝わるときの速度である"群速度"、そして、波の先端が伝わるときの速度である"波頭速度"です。これらのうち、"波頭速度"だけが2.99x108 m/sを超えることができません。しかし、"位相速度"と"群速度"は2.99x108 m/sよりも速くなることがあります。一般に、「光よりも速いものは無い」と言われていますが、速度というものの捉え方によっては、「光よりも速いものはある」ということになるわけです。
というわけで答えは、「存在したり、しなかったり」ということになります。
Q6. 宇宙線とはなに?
1. 宇宙に存在する光線
2. 高エネルギー荷電粒子
3. 太陽の磁力線
A6. 2. 高エネルギー荷電粒子

宇宙空間にはさまざまな放射線が存在しています。その中で、高エネルギーの荷電粒子のことを宇宙線と呼びます。
銀河系内で超新星爆発の際に撒き散らされた荷電粒子が、衝撃波等で加速されて高いエネルギーをもったとされています。このような宇宙線は銀河宇宙線と呼ばれ、生成されてから銀河系内を旅して地球近くに達するまでに1千万年ほどかかっていると言われます。
地球の近くでは、太陽表面での爆発現象(太陽フレアなど)によって、高エネルギー荷電粒子が放出される例があります。このような宇宙線を太陽宇宙線またはSEP(Solar Energetic Particle)と呼びます。"身近"なサンプルとして、宇宙線の加速機構の解明の188bet体育_188bet备用网址対象とされています。
宇宙線は地球大気と相互作用を起こし、さまざまな素粒子を生成します。当グループでは、その中のμ粒子を観測しています。
Q7. 人間が原子の存在を認識する手段は?
1. 直接目で見たり、触って認識する
2. 原子によって引き起こされる現象によって認識する
3. 認識する方法はなくて、実は存在すると思っているだけ
A7. 2. 原子によって引き起こされる現象によって認識する

「物を細かく分割していくと最後にどうなるのか?」という疑問に対して、"それ以上分割不可能な存在"という概念として「原子」という言葉が考えられました。原子は極めて小さく、これまで人間が原子を直接目で見たり触ったりしてその存在を認識できたという報告はありません。人類が原子は確かに存在すると考えるようになったのは20世紀になってからです。19世紀初頭にロバート?ブラウンは、水に浸した花粉から出てきた微粒子が不規則な運動(この運動はブラウン運動と呼ばれています)をするという実験報告を発表しました。始めは微粒子が生命体であるとして解釈されていたようですが、19世紀後半に同じ現象が無機物質の微粒子でも観測されたことで、微粒子が生命体であるという考えは否定されました。ブラウン運動を「微粒子を取り囲む液体分子の不規則な衝突の結果」と考えることで説明したのがアインシュタインです。原子や分子は極めて小さく、人間が直接認識することはできませんが、大きさが人間と原子の間にある微粒子を利用することで、間接的に原子の存在を認識することができます。アインシュタインが1905年に発表した論文には微粒子の運動に関する関係式が導かれていますが、その関係式が実験結果と一致することがペランによって確かめられたことで、ブラウン運動は原子が存在する証拠とされるようになりました。

原子の存在を認識した人類は、物は原子が集まって構成されると考えるようになり、物が示す様々な物理的な性質は、"物を構成する原子の性質を記述する物理法則"や"多数の原子が集まることで現れる性質を記述する物理法則"などの様々な物理法則によって理解できると考えられています。
Q8. 希土類元素の中にガドリニウム(Gd)という金属があります。この金属に磁石を急に近づけると?

1. 温度が高くなる。
2. 温度変化はしない。
3. 温度が低くなる。
A8. 1. 温度が高くなる。

遷移元素の多くは、磁気モーメント (原子単位の微小磁石)をもっています。ガドリニウムは低温でこの磁気モーメントが同一の方向に揃った状態(強磁性状態)を取りますが、室温付近で方向が乱雑な状態(常磁性状態)への相転移を起こします。この状態で磁石を近づけると、磁気モーメントが磁場方向に揃うため、磁気エントロピーは減少して発熱します。逆に、磁石を遠ざけるとガドリニウムの温度は低下します。このように、磁場の変化による磁性体の温度の変化を、"磁気熱量効果"と呼び、この現象を利用して冷凍を行うのが磁気冷凍です。磁気冷凍は、コンプレッサーを用いないため効率を上げるポテンシャルを持ち、フロンや地球温暖化ガスを用いない地球に優しい冷凍法です。
Q9. 水素原子は陽子と電子からできていて、それらの間には静電気力と万有引力が働いていますが、どちらの力が大きい?
1. 静電気力のほうが大きい
2. 万有引力のほうが大きい
3. 2つの力の大きさは等しい
A9. 1. 静電気力のほうが大きい

陽子と電子の間に働く静電気力と万有引力を比べると、静電気力のほうが万有引力より圧倒的に大きいのです。そのため、原子の性質を調べるときには静電気力だけ考えれば十分で、陽子と電子の間に働く万有引力は近似的に無視して構いません。しかし、自然界にある色々な力を調べる素粒子理論の分野では、なぜ万有引力が静電気力などのほかの力に比べて非常に小さいのかが大きな謎になっていて、その理由を探ることが万有引力の秘密を解き明かす鍵になると考えられています。
Q10. アルミニウム(Al)、銅(Cu)、銀(Ag)のうち超伝導体はどれ?
1. アルミニウム(Al)
2. 銅(Cu)
3. 銀(Ag)
A10. 1. アルミニウム(Al)

アルミニウムは1.2 K(-272℃)以下で超伝導を示します。アルミ缶などで身近にある金属なので意外な気もしますね。
この他スズ(Sn)、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)といった金属も超伝導を示します。ただし、これらの金属は超伝導になる温度が非常に低温であるために、我々の生活のなかで気軽に使うことはできません。
ここで、「高温超伝導体」をいう名前を思い出した人も多いでしょう。高温超伝導体は液体窒素の沸点77 K(-196℃)より高い温度で超伝導を示すので、比較的簡単に超伝導状態を実現できる物質なのですが、ひとつ欠点があります。高温超伝導体は金属元素を含みますが厳密には金属ではなく、身近なものでいうと陶磁器に近いもので、展延性がなく実用のために加工することが非常に難しいのです。
では実用化しやすく転移温度が高い超伝導体を見つけるにはどうしたらいいのでしょうか?答えはまだありません。超伝導のメカニズムがまだ正確にはわかっていないからです。現在も世界中で理論面、実験面から様々な188bet体育_188bet备用网址が続けられています。いま超伝導に興味を持ったあなたも、将来その188bet体育_188bet备用网址に加わることができるかもしれません。
Q11. 1間(けん)は約180cmで,畳は1間×\(\frac{1}{2}\)間の長方形です。\(\frac{1}{2}M\)間×\(\frac{1}{2}N\)間(\(M,N\)は自然数,\(M\)は偶数)の長方形の部屋に畳を敷き詰めます。
初級問題:\(M=2\)では敷き方は何通り?(例:\(N=1\) → 1通り,\(N=2\) → 2通り)
上級問題:一般には敷き方は何通り?(例:\(M=4,N=3\) → 11通り)
A11. 初級問題:
\(\displaystyle
\frac{1}{\sqrt{5}}\Bigl(\bigl(\tfrac{1+\sqrt{5}}{2}\bigr)^{N+1}
-\bigl(\tfrac{1-\sqrt{5}}{2}\bigr)^{N+1}\Bigr)\),

上級問題:
\(\displaystyle
\prod_{k=1}^{\frac{M}{2}}\prod_{l=1}^{[\frac{N}{2}]}
4\Bigl(\cos^2\!\tfrac{k\pi}{M+1}+\cos^2\!\tfrac{l\pi}{N+1}\Bigr)\)


畳の敷き方と物理学に何の関係があるの?と思われた事でしょう。物体表面への気体の吸着,特に二原子分子で金属表面(平面)を覆う話題を考えると,二原子分子が畳に,金属表面が部屋に相当します。分子などの粒子が非常に数多く存在する系を記述する熱力学をミクロな立場から捉える統計力学では,状態の数を数える事が求められます。状態の数をまとめ上げた分配関数という量を計算すると,それから自由エネルギー,比熱などの様々な物理量が導かれます。統計力学だけでなく私の専門とする素粒子論や数理物理学においても,ある条件を満たす状態が幾つあるのかを数え上げる事が重要となる事がしばしばあります。

初級問題は高校生の知識で解く事ができます。\(N=n\)の場合に\(a_n\)通りあるとします。横長の部屋の左側から畳を敷いていくと,右端で最後に敷く畳は,縦にした畳を1枚敷くか横にした畳を2枚敷くかのいずれかなので,\(a_n=a_{n-1}+a_{n-2}\) \((n\geq 3)\)が成り立ちます(フィボナッチ数列と同じですね)。この3項間の漸化式を初期値\(a_1=1\), \(a_2=2\)の下で解けばよいのです。答は一見\(\sqrt{5}\)を含む無理数に見えますが,二項定理を使えば\(\sqrt{5}\)が打ち消される事が見て取れます。上級問題を解くには大学生の知識が必要で.答の式の\(\prod\)は積を表し(\(\prod\limits_{k=1}^na_k=a_1a_2\cdots a_n\)),\([x]\)は\(x\)を越えない最大の整数を表しています。これは整数値になっている筈ですが,有理数値である事すらピンときませんね(関数電卓で数値計算をしてもらうと確かに整数に近い値が返ってくる事は確認できますが)。吸着時のエネルギーを割り振って分配関数を計算すると,畳の配置と順列を巧みに対応させる事でパフィアンという量で表される事が分かり,あとは大学の線型代数で学ぶ行列式の計算を実行すればよいのです。状態の数を数える際に色々な数学を利用するので,様々な数学を学んでおく事をお薦めします。
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