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入学式学長式辞

信州大学入学式学長式辞(2025年4月)

  この映像は令和7年4月4日令和7年度信州大学入学式での学長あいさつを収録したものです。




 新入生の皆さん、本日は誠におめでとうございます。信州大学を代表して、皆さんのご入学を心より歓迎いたします。また、皆さんを長年にわたり温かく支えてこられたご家族や関係者の皆さま方に対し、心よりお祝いを申し上げます。

 さて、この特別な日に、皆さんと信州大学の存在意義について考え、共有したいと思います。
 本学は今年、創立76周年を迎えます。その歩みをひもとけば、1919年創立の旧制松本高等学校や1910年創立の上田蚕糸専門学校など、100年を超える歴史を有する前身校の系譜が浮かび上がります。いずれも地域と深く結びつき、それぞれの分野で独自の発展と伝統を築いてきました。こうした歴史と伝統を背景に、信州大学は、日本で唯一、旧国名を冠する国立の新制大学として発足しました。それぞれの前身校の特色を尊重しつつ、一つの総合大学として統合されてきた歩みこそが、今日の信州大学の礎となっています。したがって、本学には、この地域における「知のインフラ」、また「ソーシャル?キャピタル」として、極めて大きな期待が寄せられています。言い換えれば、私たちには「社会の公器」としての役割を果たすという、普遍的な使命と責任が求められているのです。
 このような認識のもと、信州大学は「大学改革実行プラン inGEAR」を策定しました。inGEARとは、inGenious, Enterprising and Actionable Regional revitalization の頭文字を組み合わせたもので、"独創的、進取的、かつ能動的な地方創生"を意味します。信州大学はこのフィロソフィーのもと、まさに"ギアを一段上げて"、地域の振興に真摯に、そして全力で取り組んでまいりました。

 本日、皆さんが足を踏み入れたこの「学び舎」は、単なる知識の集積所ではありません。しばしば「学問の府」と称される大学は、人類が積み重ねてきた叡智を継承する場であると同時に、新たな知を創造する最前線でもあります。近年、AI(人工知能)の進化により、情報の収集や分析といった作業の多くが機械に担われるようになりました。しかし、大学での学びはそれとは異なり、問いを立て、意味を探求し、新たな価値を生み出すという、人間固有の創造的営みが求められます。皆さんはここで、先人が築いてきた知を学び、それをさらに深化させ、時代の要請に応じた知を創造し、未来を形づくる責任を担っています。
 なぜ学ぶのか。学び続けるとは何か。皆さんはこの問いに、これから日々向き合うことになります。学びとは、知識や技能を獲得し、社会で活躍するための手段であると同時に、人類が自己と世界を認識し、その意味を問い直し、新たな価値を創出する営みでもあります。その行為そのものが、個人と社会の未来を形づくる力となるのです。大学は、未知への探求を許容し、知的好奇心が自由に羽ばたく場です。皆さんは、ここで多様な学問に触れ、異なる価値観と出会い、時には自らの考えを揺さぶられる経験をするでしょう。それこそが学問の醍醐味であり、知の地平を押し広げる原動力となるのです。

 今日の世界は、急速な技術革新と社会変容の真っ只中にあります。とりわけ、AI、その進化形であるAGI(汎用人工知能)やASI(人工超知能)、さらに量子コンピューティングに代表される情報?計算科学の先端技術の進展は、これまでの常識を根本から覆そうとしています。量子技術においては、「量子超越性」の実現が現実味を帯び、生成AIはすでに人間の判断や思考を代替しつつあります。
 こうした技術革新の波は、産業構造や経済システム、教育のあり方にとどまらず、人々の価値観やライフスタイルにまで大きな影響を及ぼしています。社会全体が、これまでにない速度と規模で再編されつつあるのです。複数の文化や価値観がせめぎ合いながら交錯する中で、私たちは、あらためて人間と社会のあるべき姿を問い直し、新たな社会像を模索していかなければなりません。
 このような時代においては、静的な知識の獲得ではなく、動的な知の修得と再構築が不可欠です。既存の知を鵜呑みにするのではなく、問い直し、再解釈し、新たな知の体系を自ら構築しようとする姿勢が求められます。現代社会が直面する課題は極めて複雑であり、環境問題、エネルギー危機、持続可能な発展などの解決には、単一の学問領域では限界があります。そのため、本学では「超学(Trans-interdisciplinary)」という新たな教員所属組織を設置しました。これは、学問の境界を超えた知の実践として、社会実装を視野に入れた教育188bet体育_188bet备用网址活動を展開するためのものです。「超学」は、異なる学問分野の知識や技術を統合し、188bet体育_188bet备用网址者間の学際的協働を促進しながら、新たな知見と革新を生み出す場となることを目指しています。越境共創型の知の創造を通じて、多様な主体が協働し、社会的課題を解決するための実践知を創出していきたいと考えています。

 信州大学では、これまでも、この「超学」の考え方の先駆けともいえる、ディシプリン(discipline)を超えたユニークな教育プログラムを提供してきました。その一つが、「全学横断特別教育プログラム」です。本プログラムは、社会や地域のニーズに応じた5つのコースで構成され、専門分野を超えて多様な知識とスキルを修得できる仕組みになっています。具体的には、ローカル?イノベーター養成コース、グローバルコア人材養成コース、環境マインド実践人材養成コース、ストラテジー?デザイン人材養成コース、ライフクリエイター養成コースがあります。これらのコースでは、それぞれの分野に特化した独創的な学びの機会が提供され、修了者には、国際的に認められるオープンバッジが授与されます。この制度は、北米の教育制度におけるメジャー?マイナー制度に近く、専門分野に加えて副専攻的に異分野の学びを深めることが可能となります。
 さらに、本学は、「地域活性化人材育成事業 ~SPARC~」において、国公私立大学の枠を超えて、長野大学および佐久大学と協力し、地域に根ざした高度人材の育成を目指す「ShinXia」を展開しています。地域社会の持続的発展に貢献できる人材の育成を目的としたプログラムを提供し、その履修者には修了証が発行されます。
 このように、信州大学は、学問分野の枠を超えた学びの場を提供し、地域社会やグローバル社会で活躍できる人材の育成に努めています。未来を創るのは、皆さん自身です。私たちは、しばしば未来を外在的なものとして捉えます。しかし、未来とは、決して受動的に訪れるものではなく、現在の行為によって形作られるものです。皆さんが大学で培う知性、思考力、創造力こそが、未来の社会をデザインする力となります。これらのプログラムをぜひ履修していただき、すべての皆さんが広い視野を持ち、未来を切り拓く力を養うことを心から期待しています。

 信州大学は、地域の枠を越え、世界全体を豊かにすることを目指しています。この理念を「グレーター?ユニバーシティ?ビジョン(VGSU)」と称し、本学の188bet体育_188bet备用网址力強化の指針として位置付け、これまで精力的に取り組んできました。その成果の一つとして、本学は文部科学省の重点施策である「地域中核?特色ある188bet体育_188bet备用网址大学強化促進事業(J-PEAKS)」に選定されました。J-PEAKS188bet体育_188bet备用网址大学群の一員として、日本全体の188bet体育_188bet备用网址活動の活性化に寄与するとともに、世界における日本の188bet体育_188bet备用网址プレゼンスの向上に、これまで以上に責任を持ち、主体的に貢献していく使命を担うことになります。
 その中心となるのが、「水および水由来水素エネルギー」に関する188bet体育_188bet备用网址です。「水」は持続可能な社会を実現するために不可欠な資源であり、地球規模の深刻な水不足を解決するため、その効率的な利用と高度な循環システムの確立が求められています。松本キャンパスの正門の南側に新設された「アクア?リジェネレーション共創188bet体育_188bet备用网址センター」 はそのランドマークであり、世界の水とエネルギーに関する最先端の知見と技術が集約されています。信州大学は、地域社会のみならず、国際的な課題にも対応し、地域発のイノベーション創出を推進しています。この分野において本学は、すでに数多くの特許を取得し、それらの成果を社会に還元してきた実績があります。水の循環利用技術や水素エネルギーの生成技術は、地球環境の保全および持続可能なエネルギー供給の鍵を握るものであり、本学は現在、国内外の企業や188bet体育_188bet备用网址機関や自治体と連携しながら、技術開発を進めています。なかでも、太陽光を利用して水から直接グリーン水素を製造する技術は、地上に放出された炭素を回収する技術と組み合わせることも想定していることから、「人工光合成」とも呼ばれ、国際的に大きな注目を集めています。

 J-PEAKS信州大学には、「水の惑星?地球」における「水のサステナビリティ」を維持?向上させるという、極めて重要かつ崇高な使命が課せられています。これまで本学は、タンザニアやサウジアラビアをはじめとするグローバルサウスに赴き、長年にわたる188bet体育_188bet备用网址成果の社会実装を、現地の人々と手を携えながら着実に推進してまいりました。
 その過程において、本学は、国や文化の壁を越えて、深い信頼と連帯に基づく協働の関係を築いてきました。また、地球上に生きるすべての人々が、安心?安全な水を等しく享受できる未来の実現を目指し、「Water Zero-Positive」という新たな理念も構築してまいりました。こうした取り組みこそ、信州大学の志と実践が、いかに地球的な高みを目指すものであるかを如実に示しています。
 この一例からも明らかなように、本日ここに集う皆さんに寄せられている社会からの期待は、実に大きなものがあります。皆さん一人ひとりの知的躍動と、創造的な挑戦に、私は心から期待しています。

 これからの大学生活の中で、皆さんは幾多の困難や試練に直面することでしょう。しかし、その一つひとつを乗り越える力こそが、大学で培うべき最も重要なコンピテンシーのひとつです。
 人生とは、他者から与えられるものではなく、自らの意志と行動によって切り拓いていくものです。時に孤独を感じることもあるかもしれませんが、決して皆さんは独りではありません。どうか、自ら積極的に多くの友や仲間と出会い、豊かな人間関係を築いてください。大学は、多様な価値観を持つ人々と出会い、互いに学び合いながら人間性を深めていく貴重な場であり、その経験は、皆さんの人生を支える大きな財産となるはずです。

 『論語』には、「義を見てせざるは、勇無きなり」とあります。正しいと知りながら行動しないのは、勇気の欠如にほかならないという教えです。学びとは、知識を得るだけでは終わらず、それを実践に移し、社会へと還元するところに真価があります。また、「徳は弧ならず、必ず隣(りん)有り」とも説かれています。すなわち、誠実な行いは決して孤立することなく、必ず共鳴し合う存在が現れるということです。皆さんが勇気をもって挑戦し、善き行動を積み重ねていくならば、その姿勢は必ず周囲に広がり、より良い社会を築く力となることでしょう。努力は決して裏切りません。一生懸命に歩み続ける人は、必ずや自らの目標に到達し、社会からも正当に評価されるのです。

 信州大学は、皆さんの挑戦を全力で支えます。皆さんが自らの未来を切り拓き、新たな価値を創造することを心から期待しています。

 未来は、今まさに、この瞬間から始まります。
 ともに、学び、成長し、そして、より良い社会、ありたい未来の実現を目指しましょう。  

 本日は誠におめでとうございます。

令和七年四月四日
信州大学長 中村 宗一郎