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卒業式 学長告辞

令和6年度卒業式?学位記授与式学長告辞 (2025年3月)

  この映像は令和7年3月21日信州大学松本地区卒業式?学位記授与式での学長あいさつを収録したものです。




 皆さん、ご卒業?修了?学位取得、誠におめでとうございます。本日ご臨席を賜りましたご来賓の皆様、ご家族、ご友人、関係者の皆様とともに、心よりお祝い申し上げます。

 学部卒業生の皆さんが入学された2021年は、188bet体育_188bet备用网址?パンデミックの影響により、講義はオンラインが中心となり、課外活動やアルバイトにも大きな制約を受けました。思い描いていた大学生活とは大きく異なる状況に直面し、戸惑うこともあったことでしょう。しかし、そのような厳しい環境の中でも、皆さんは学びを止めることなく、ひたむきに努力を重ね、こうしてこの晴れの日を迎えるに至りました。その強い意志と不屈の精神に、深く敬意を表します。

 皆さんが卒業?修了を迎えるこの2025年、世界は新たな知の地平を拡げつつあります。イギリスの経済誌 Financial Times は、2025年を象徴する言葉のひとつとして「エージェントAI」を挙げました。エージェントAIとは、Google、OpenAI、Microsoftなどが開発を進める、私たちの生活や仕事のデジタルタスクを自律的に遂行する人工知能を指します。オンライン環境において、エージェントAIは、オンラインフォームの入力、買い物リストの作成、メールの送信、通話の文字起こしなどを行い、人間の意思決定を支援します。こうした技術の発展により、AIが私たちの身近な「エージェント(代理人)」となる時代が到来しつつあります。
 急速に進展するデジタルトランスフォーメーションの中で、私たちは「人間の知性とは何か」「人類が果たすべき役割とは何か」を改めて問い直す必要があります。皆さんは信州大学で学び、挑戦し、そして心身を鍛えてきました。その過程で培った知識と経験は、AIには決して真似のできない、かけがえのないものです。AIの卓越した能力に無批判に依存するのではなく、AIとの協働を通じてどのように新たな価値を創造し、未来を切り拓いていくのかが問われています。このような考え方は、「ハイパーマインド」という考え方に通じます。すなわち、人間の知性とAIの能力が対立するものではなく、むしろ融合し、新たな価値を生み出す可能性を秘めた「マインドセット」と捉えることができます。
 エージェントAIの時代において、皆さんが目指すべきは、人間の可能性を拡張する「ハイパーマインドの創造者」となることです。知を深め、社会とつながり、新たな価値を生み出す存在へと成長してください。そして、今日という節目を、新たな挑戦の始まりとし、力強く歩みを進めてください。

 近年、大学教育においても、学修成果が重視されるようになり、その指標として『コンピテンシー』の概念が注目されるようになりました。コンピテンシーとは、専門的な知識や技術にとどまらず、社会で求められる幅広い能力を指します。具体的には、コミュニケーション能力、チームワーク、問題解決力、リーダーシップなど、人と協働し、社会を動かす力が含まれます。本学では、『信大コンピテンシー』を「信州という美しい環境で、人を敬い自然を愛しつつ、豊かな未来を切り拓く力を身につけている。」と定めています。この理念のもと、皆さんはここでの学びを通じて、情報収集能力や高度なスキルの修得にとどまらず、他者と協調し、社会をより良いものへと導く力を養ってきました。私は、「豊かな未来を切り拓く力」とは、つまるところ「困難に打ち勝つ力」であると信じています。
 皆さんが本学で培った「決して諦めず、活路を見出す力」をさらに研ぎ澄ませてください。プランAが適わなければプランB、それも適わなければプランCへ。あるいはA/BやB/Aといった新たな視点を柔軟に取り入れながら、挑戦し続けることが求められます。時には、YESでもNOでもない選択、すなわち「Beyond the Boundary(境界を超える)」という視点を持ち、その先に広がる新たな解を見出すことこそが、VUCAの時代を生き抜く力となるでしょう。VUCAの時代においては、常識にとらわれず、視野を広げ、高い志を抱き続けることが何より重要です。

 成功への道は決して平坦ではなく、山あり谷ありの連続です。しかし、長い人生において、どのような経験も決して無駄にはなりません。試練や困難に直面しても、未来を信じ、果敢に、そして力強く、次の一歩を踏み出してください。その先には、皆さんにとって大きな成長が待っているはずです。
 挫折や失敗を恐れず、それらを糧にし、確固たる決意をもって前進してください。努力が実を結び、希望の光が見えるその瞬間まで、歩みを止めることなく挑戦し続けてください。
 志を高く掲げ、自らの信念を貫き、しなやかに、そして力強く歩みを進めてください。世界の舞台においても、自らの価値を示し、未知なる領域へ果敢に挑み、新たな可能性を切り拓いていくことを願っています。

 成功の道を歩むうえで、人を敬い、思いやる心を持つこともまた、非常に重要です。『無欲恬淡(むよくてんたん)』、『無欲の果報』、『利他の果報』という教えがあります。他者を思いやり、他者のために尽くす『利他の精神』に基づき、誠実に努力を重ねる者こそが、最終的に報われるのです。誠を尽くし、思いやりをもって人と接する『忠恕(ちゅうじょ)の道』は、皆さんの人生をより豊かに導くことでしょう。『お天道様は見ている』や『努力は必ず報われる』という言葉もあります。これらの言葉を胸に刻み、何事にも誠実に、ひたむきに取り組んでください。論語の『顔淵(がんえん)第十二』には、このように述べられています。「内に省みて疚(やま)しからざれば、夫(そ)れ何をか憂へ、何をか懼(おそ)れん。」すなわち、自らの行いを省みて恥じることがなければ、何を憂い、何を恐れることがあるでしょうか。

 さて、本日、信州大学を巣立つ皆さんに、ぜひ知っていただきたいことがあります。それは、『信州大学が目指す未来』です。昨年1月、本学は『地域中核?特色ある188bet体育_188bet备用网址大学強化促進事業(J-PEAKS)』の188bet体育_188bet备用网址大学群12校の一つに選定されました。この事業は、大学の188bet体育_188bet备用网址活動の高度化と社会への貢献を促進することを目的としたものであり、我が国の大学の188bet体育_188bet备用网址力を向上させるための新たな枠組みといえます。188bet体育_188bet备用网址大学群の一員として認められるか否かを決する重要な施策において、本学は、全国の大学との熾烈な競争を勝ち抜き、選定を受けたのです。本学の提案は、水のサステナビリティを基盤とし、水の惑星?地球の持続可能な発展を牽引するという壮大なビジョンを掲げたものです。信州大学の挑戦は、単なる学術188bet体育_188bet备用网址にとどまらず、188bet体育_188bet备用网址成果の社会実装を進めるだけでなく、地球環境問題の解決にも寄与する取り組みへと発展しつつあるのです。
 『水』の循環に関連する技術は、持続可能な社会を実現するために不可欠な要素であり、本学はこれまでに数多くの特許を取得し、それらの技術を社会へと還元してきました。持続可能な『水』の供給は、現代社会が直面する最も重要な課題の一つであり、本学はこの分野においてリーダーシップを発揮しています。本学が推進する『アクア?リジェネレーション』は、グローバルサウスを含む海外の企業や大学との連携を通じて、活発に188bet体育_188bet备用网址を進めています。特に、太陽光と光触媒のみを用いて水から直接水素を生成するグリーン水素製造技術は、メタネーション技術との組み合わせによって、大気中の炭素を固定して循環利用するというコンセプトを含むことから、『人工光合成』とも呼ばれています。この革新的な技術は、持続可能なエネルギー供給の鍵となるものであり、世界的に高い関心を集めるプロジェクトとなっています。
 これらの188bet体育_188bet备用网址の発展と社会への貢献を支えているのは、本学の教職員と学生のたゆまぬ情熱と努力の賜物です。皆さんが日々積み重ねてきた学びと挑戦が、信州大学の188bet体育_188bet备用网址成果として結実し、国内外で高く評価されています。本学が『地域貢献度ランキング』で長年にわたって高い評価を受け続けているのも、皆さんのたゆまぬ努力と実践があってこその成果です。
 これから皆さんが社会に出るにせよ、大学院でさらに研鑽を積むにせよ、本学で培った知識と経験を礎に、広い視野を持ち、柔軟な思考を忘れず、新たな挑戦を続けてください。知識は知恵へと、また、経験は実践知へと昇華させ、社会に貢献する存在として、それぞれの未来を創造し、力強く歩まれることを心より願っています。

 皆さんの目の前には、無限の可能性、希望と夢に満ちた広大なフロンティアが広がっています。「夢なき者に理想なし。理想なき者に計画なし。計画なき者に実行なし。実行なき者に成功なし。故に夢なき者に成功なし。」これは、幕末に活躍し、後の日本の近代化に大きな影響を与えた吉田松陰の言葉とされています。皆さんが自らの夢を持ち、それを実現するための努力を惜しまなければ、必ず道は開かれます。信念を持ち、行動し続ける人であり続けてください。どうか、初心を忘れず、ピュアな情熱を持ち続け、こころ豊かな人生を歩んでください。

 皆さんの健康と幸福、そして輝かしい未来を心よりお祈りし、私の餞(はなむけ)の言葉といたします。

 本日は誠におめでとうございます。

令和七年三月二十一日 
信州大学長
中村 宗一郎