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世界では日量6550万トンの海水が淡水化されて人々の生活を支える一方、プラスチック分解物が紛れ込むなど原水が劣化して水道水等が汚染されています。こうした問題解決に貢献し、日本発のイノベーションを再び水で起こすため、プロジェクトで蓄積した知見を生かす新たな水処理膜の開発に取り組んできました。ポリアミド(PA)の中にカーボンナノチューブ(CNT)やセルロースナノファイバー(CNF)といったナノ物質を混ぜて合成し、新たな逆浸透(RO)膜を作りました。これまでに世界で作られた複合型RO膜は、カーボンナノチューブの含有量が0.3%程度なのに対し、私たちの膜の含有量は最大20%。プロジェクトの目標値である、脱塩率99.8%、透水率従来比50%向上という高いハードルを超え、高機能の膜が誕生しました。大型の機械製膜と、それをモジュール化して評価体制を完備するところまで達成したのです。この膜は塩素水に強く、膜トラブルの6割を占めるファウリング(汚れ付着)にも高い耐性があります。カーボンナノチューブとポリアミドの間で電荷移動が起こり、膜が弱くポジティブにチャージするため、ファウラント(汚れ)が付着しないのです。海水淡水化施設ではファウリング洗浄のために使用した大量の薬剤が世界で年間数十万トンも海に廃棄されていました。これを10分の1以下に減らすことができます。信大発の「Green Desalination(環境にやさしい海水淡水化)」です。海に廃棄する薬剤の最小化は、閉鎖系の海洋では海洋の環境保全で重要なコンセプトです。海水淡水化膜の膜技術を発展させ、工学用 超純水と家庭用浄水器用として展開することも考えました。ポリアミドにセルロースナノファイバーを入れると耐ファウリング性が向上し、高い透水性のある膜ができました。水道水圧で動く超低圧駆動のRO膜の開発は世界で初めてのことで、NSFの認証を得て国際的な用途が期待されています。遠藤188bet体育_188bet备用网址リーダーの発表に続き、家庭用浄水器の実証実験を遠藤チームと共同で行っている、タイバンコクのキングモンクット工科大学かキングモンクット工科大学ら、同国の飲料水事情と信ウィナッダ?ウォン大RO膜モジュールを使ったグウィリヤパン水道水浄化実験の優れた結果が報告されました。タイは安心安全なきれいな水が不十分で、多くの市民は水道水を直接飲んでいない現状にあり、低コストでたくさん水が作れる浄水器が必要です。信大膜の浄水器は市販に比べて汚れに強く長く使えて、特に透水性が高いので期待されています。実証試験を行っている北九州市の実証プラント水道水圧で浄水できる家庭用浄水器の実証試験(タイ)信大が開発したCNT/PA複合RO膜は、汚れに強く淡水化の前処理を簡易化?省略化することが期待されます。使用薬剤を減らしつつ安定運転を実現するシステムを構築することで、施設全体での低コスト化が実現できます。この膜を使った淡水化の社会実装に向け、製膜とモジュール開発、実海水での評価を行いました。信大に設置したセミパイロットスケールでは1?2メートルの平膜ロールを製膜し、基本的な製膜技術を確立。パイロットスケールでは量産化を見据え最大70メートルを超える連続製膜が可能になりました。北九州の実証プラントでCNT/PA複合RO膜と市販膜の比較試験を行ったところ、CNT/PA複合RO膜は付着物、菌の量が少なく、膜汚染に強いことが実証されました。本試験により造水コストは従来比20%減、廃棄物量は70%減などといった成果が得られる見通しです。今後は膜、システムに加え、膜汚染予測モデルの構築により、膜汚染を抑制しながら設備を運転するための計画策定などが期待されています。地球上で利用可能な淡水は全水量の0.01%で、人口増加などにより水の需要は増大していきます。中東諸国では淡水化が主要な造水方法であることを背景に海洋汚染が進み、安定的な造水と環境負荷低減に寄与する淡水化を模索しています。また、島しょ国では温暖化の影響による海面上昇で淡水化への移行が進むことから、安定的な淡水化と環境資源につながる設備が求められています。CNT/PA複合RO膜モジュール世界最大級のSWCC海水淡水化施設サウジアラビア王国は環境世紀に向け、砂漠を緑化してCO?の吸収地域とする?などのグリーン構想を提唱しています。同国は海水淡水化では世界の約25%のキャパシティがあり、その中核機関が「サウジアラビア海水淡水化公社(SWCC)」。ここで現在、信大のモジュールを使って評価実験を行っています。グリーン化構想では、緑育成のプログラムに海淡を活用するため信大と広範なテーマで連携協定を結ぶ予定です。シンポジウムではグリーン化構想についてサウジアラビア在日本大使館やSWCC、信大と連携予定の現地の大学関係者がオンラインで発表しました。2021年3月に発表された「グリーンサウジイニシアチブ」は、砂漠の緑化などを通じてCO?排出量削減や海洋生物保護に取り組むグリーン構想です。大使館のアリ博士は温室効果ガスによる大気汚染や砂漠化が中東の経済的リスクとなる現状を説明し、水素経済や人工知能、ロボット工学を駆使する未来都市「NEOM(ネオム)」構想についても紹介しました。SWCCのアルナマジ氏は、グリーンエネルギーの依存度を高める必要性を強調しました。SWCCは従業員約1万人を擁し輸送パイプラインを持つ淡水化の世界最大の組織で、エネルギー消費の削減と淡水化によってグリーン構想を実現しようとしています。RO膜のテクノロジーを利用してCO?や化学物質の排出量を削減し、火力発電所等を持続可能なプラントに置き換えようとしています。このほかグリーン構想の実現に向けたタイフ大学とメディナ?イスラミック大学の188bet体育_188bet备用网址分野と人材、信大COIとの共同188bet体育_188bet备用网址への期待についても紹介されました。SWCCで使用しているベッセル188bet体育_188bet备用网址成果報告信大発「Green Desalination」04緑化構想に膜のテクノロジー活用信大とサウジが連携へ海水淡水化とグリーンサウジ高性能のナノカーボン膜開発汚れにくく環境負荷を低減188bet体育_188bet备用网址リーダー/信州大学特別栄誉教授遠藤 守信?環境にやさしい海水淡水化を実現する水処理膜?社会実装に向けた開発技術の成果と実証株式会社日立製作所 北村 光太郎

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