‐29‐ を転がすことを繰り返し,木球が大きく跳ね上がる度に笑顔を見せた。A児は,友だちが転がした木球であっても,A児が作った雨樋と積み木の仕掛けを木球が転がる際には必ず手を止め,木球の軌道を目で追った。雨樋と塩ビ管の継手の他にも転がし遊びに使えるものがないかと探すA児が,親しんだ積み木に新たな使い方を見出し,転がし遊びに見出した三角形の積み木の特性を取り入れていった。その後も,雨樋と三角形の積み木でつくった仕掛けで跳ね上がった木球がさらに転がるように,木球が跳ね上がった後に続くコースを作り変えながら遊んでいく姿が見られた。 このように,A児は豊かな遊びの経験を積み重ねながら,繰り返しものにかかわることで,同じものを見ても,違ったものの見方でものとかかわっていくことができるようになっていった。「もっとこうしてみたい」「こうしたらどうだろう」という「思いや願い,問い」をもって対象にかかわり,対象からの働き返しを受けてさらに「思いや願い,問い」を膨らませていく姿は,自分でやろうと決めた【遊び】だからこそ見られる姿であり,「探究的な学び」の姿だと考える。 「遊びの環境の構成図」を用いてカンファレンスを行うことによって,子どもがどのように伸びていこうとしているのかという方向性を保育者が意識できるようになり,保育者の意図や願いを鑑みながら,教育目標である「遊びにうちこむ子ども」を支える環境を構成できるようになりつつある。今後は,様々な場所で遊ぶ子どもたちの「思いや願い,問い」を捉えていけるように,「遊びの環境の構成図」を用いて,職員全体でカンファレンスを行おうと考えている。 (2)小学校低学年~遊びの中の感受をつなぎ,緩やかに統合していく【遊びの領域化】~ 【事例①】単元名:「じぶんのせん,じぶんのいろ」(小1年 かがく領域) 1)遊びの出会い,意図的に領域化する 本年(2021年)5月上旬の「学校探検」で,学校内にある丸池周辺に腰かけ,手に持った花びらを水につけて丸池の縁に線をかいて遊んでいた児童のつぶやき「花びらに水をつけたら筆みたいだな」を学級全体に紹介したことをきっかけに,子どもが各自の経験から毛筆に関して知っている内容を共有したことから始まった。 続く6月上旬に,水書用筆との出会いの授業を設定した。自分の氏名が記された水書用筆を手に持った子どもたちの表情は,喜びと不思議さ,早く何か書いてみたいとの思いで満ちていた。実際に筆に水をつけ,思い思い自由に,自分の名前や書きたい文字を書いたり絵を描いたりした後の振り返りの場面では,普段使用している鉛筆とは異なる筆の書きやすさに驚く子どもの姿があった。その理由を問うと,「筆先が柔らかいからではないか」との考えが出された。 水書用筆は,毛筆書写の学習指導を前倒しするための学習用具ではなく,その使用目的には運筆における手や指の動きを学ぶことが含まれる。本単元では,そのための導入として,筆遊びを設定した。 筆遊びには,「領域の学習」としての魅力が内在する。例えば,「ことば領域」では,文字を書く用具としてだけではなく,相手意識を持った読み書きへと広がっていく可能性を持つ。「かがく領域」では,毛筆の大きさや材質と表現した線の太さや特徴の比較から,身近な素材への興味関心を高めることへと展開ができる。「ひょうげん領域」では,クレパスやクーピー等とは異なる毛筆の特徴を生かした絵を表現したり楽しんだりすることが可能となる。「くらし領域」では,毛筆自身をみつめ深めていく面白さがある。このような諸活動を通して,子どもの気づきの質の高まりが期待できると考えた。 2)授業「筆となかよくなりたい」 7月,教師は筆ともっと仲良くなりたいと願う子どもたちの姿から「かがく領域」を中心と
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