‐40‐ 幸せ」の方が大げさじゃないし,なんか日常の中で感じた小さな幸せがすごく伝わるんじゃないかと思って。 大澤さんは,辞書的な意味だけではなく,どう相手に伝わるかといった表現の印象や効果から言葉を見つめている。自己評価や他者評価などの省察によって,「一つ一つの言葉を見つめ返し,表現を吟味したい」という問いを立ち上げ,言葉の見方?考え方を働かせていった。大澤さんは,同じように「幸せ」「変わる」という言葉についても,類義語辞典を活用しながら意味や印象や効果の視点から見つめ直していった。最終的に,「ちょっとした幸せで人って変わる」というキャッチコピーに至った。言葉自体は変わっていないが,同じ言葉でも,大澤さんには違う見え方をしていたのではないか。 2)探究的な学びの先に,一人ひとりの生き方や在り方に届く学びが構成されていく 大澤さんは,単元末の振り返りを次のようにまとめた。 (前略)あと,言葉ってすごく難しいと思った。表現一つで相手には違う意味で伝わることもあるし。それでも,相手に伝わったときはすごく嬉しかった。伝える難しさはあるけど,伝わる喜びもあるから,言葉一つ一つにこだわって生活したい。そして,相手の心を動かせるよう,ありきたりの言葉ではなく,自分の体験から出てくる具体的な言葉を使っていきたい。 大澤さんは,この単元で何か新しい言葉を学んだわけではない。しかし,当たり前に使っていた言葉を見つめ直し,その言葉の捉えを豊かにしている。言葉や表現には様々な捉え方があることや,似た意味をもつ言葉の間にある違い,反復などの表現の効果を実感している。その実感は,大澤さんのこの先の言葉との向き合い方に,強くつながってくるのではないだろうか。 3)成果(◇)と課題(◆) ◇問いの立ち上げや問いの質の変容を支える教師の支援として,「自分の前提とのズレから起こる,立ち止まりの場面と『省察』を位置付けること」が見えてきている。本単元の自己省察,相互批評による省察,他者からの評価を活かした省察など,様々な省察場面の中で,生徒はその問いの質を変容させていった。 ◇自分の中に問いを立ち上げ,その問いの質を変容させながら,協働的に探究していく先に,一人ひとりの生き方や在り方に届く学びが構成されていく。つまり,子どもが自分の生き方や前提を問い直し,編み直していく姿や場面がある。探究的な学びの中にある「資質?能力の伸長」とは,子ども一人一人の生き方に届くことなのではないか。 ◆大澤さんは,物語を編むことによって表現されたポップこそ,「人の心を動かすポップである」という結論に至った。しかし,何人かの生徒は,意外性のある表現や機能性に特化した表現こそ,人の心を動かすという結論に至った。この違いをどう評価していけばよいのかについて,教師は戸惑いを感じている。「どこにたどり着いたのか」だけではなく,「どうたどり着いたのか」という生徒の学びの連続性に焦点を置き,生徒がどのような見方?考え方を発揮していったかを捉える,形成的な評価のあり方について考えていかねばならない。 4)未知のものに向かって生徒と共に探究を重ねていく教師 単元が始まるまで,教師は,相手に思いを馳せ,相手の立場に自分が寄っていくことで,共感が生まれ,それが心を動かすポップになるのではないかと考えていた。材との出会いの場面での大澤さんも,同じ思いを抱いていた。しかし,キャッチコピーを紡ぎ,それを自分や他者と省察し合う中で,大澤さんはその考えを変えていった。相手の状況や経験を想像し,そこに重なるような言葉を考えるのではなく,まずは自分自身と向き合い,その中で,商品に関わる大澤さんの単元末の振り返り
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