附属松本中6年次 実施報告書
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【事例②】年長さくら組 12月「丈夫な家にしよう」(大工遊び) - 25 - 〈釘を1本しか打ち付けていない 5番目の板の右側をなで,「だか ら抜けたのか」と保育者に話すK児〉 うように,思うように車を走らせるにはどうすれば良いか考えていた。また,タイヤを前方に追加することで車が安定して走ることに気付いていった。これらの姿は,T児が素材を自身の手で選び,実際に組み合わせて作っていくという,素材とのかかわりをくり返したからこそ見られるようになった姿である。 保育者が用意した,形の違う様々な種類の空き箱やヨーグルトカップ,そして車のタイヤとなるパーツなどの環境の構成が,“様々な形の箱の組み合わせを試し,車のイメージに合う形の箱を使って作っていきたい”というT児の「やりたい」を満たすことにつながった。このことにより,T児が車作りに夢中になる中で,様々な形や色の違いや,工夫してそれらの素材を組み合わせることの良さに気付いていったと考えられる。 また,1学期までは「先生,手伝って」のように,保育者との関わりが多かったT児だが,車作りを重ねるにつれて,自分で素材を貼り合わせたり,友だちに「ここ,押さえてて」とお願いしたりする姿も見られるようになった。これまで,保育者が近くにいて見守りながら言葉がけしたり,一緒に遊んだりしてきたことで,T児は自分の作りたいものを安心して作って遊んでいくことができたのではないかと考えられる。徐々に友だちとのつながりに目が向き始めたT児なので,引き続きT児の「やりたい」という思いを捉えつつ,今後はまわりの友だちとの関わりも楽しみながら遊んでいけるような援助を考えていきたい。 ⅰ)これまでのK児の姿をもとにした環境構成 年長さくら組では,積み木とコンパネを組み合わせて,2階建てや3階建ての建物をつくり,「みんなで乗れる展望台だよ」「ここにも秘密の部屋があるんだよ」などと,家の中のイメージを友だちに言いながら遊ぶ姿が見られた。K児も,「こっちは芝にしたい」など,友だちにどのような建物にしたいかを伝えながら,建物づくりを楽しむ一人であった。 このように,素材の特徴を生かして工夫して作りたいものを作り,また建物のイメージを友だちに伝えながら遊んでいくことができるように,素材に木枠や板?釘を加え,ダイナミックに大きな建物づくりをすることができる環境を構成した。 ⅱ)11月11日(金)板に釘を打ち付けて丈夫な梯子をつくるK児の姿から K児は,建物の1階から2階へ上がるために,板を組み合 わせ,釘を打ち付けてつくった梯子を置いた。しかし,友だち がその梯子を使って上り下りするたびに釘がゆるんだり,板 が外れてしまったりしていたため,その日は友だちと梯子の 修理をしていた。その姿を見た保育者は,“どんなふうに梯 子を直していくのだろう”と思い,K児の遊びを見守った。 すると,K児は左右に1本ずつ釘が打ち付けてある4番目の 梯子の左側に2本目の釘を打ち付けた。そして,釘を2本 打った4番目の板を左手で掴んだり,釘を1本しか打ち付け ていない5番目の梯子の板をなでたりした後,K児は表情を やわらげながら保育者の顔を見て「だから抜けたのか」と 言った。その姿を見た保育者は,“2本打てば頑丈な梯子に なり,外れない梯子ができるという見通しが持てたのだな” とK児の思いを捉えた。その後,梯子の両脇に2本ずつ釘を打ち終わるまで,約20分間釘を打ち 続けた。 このように,友だちが使う度に梯子がゆるんだり,板が外れたりする様子を見て,梯子を直そうと修理をする姿や,丈夫な梯子を作るための見通しがたってから20分にもわたって黙々と梯子に釘を打ち付けていた姿から,保育者は,この時のK児には“建物に来る友だちが使いやすいよK児は,これまでの遊びの中でも,ティッシュ箱の上を切り取って荷台を作り,四角の豆腐容器とタイヤを付けるなど,いろいろな形の素材を組み合わせてショベルカーを作っていた。また,作ったショベルカーを園庭へ持ち出し,「ここが本物の道ならいいのにな」と友だちに言いながら,ショベルカーを空中で走らせる姿も見られた。このようなK児の姿から,作りたいものをイメージしながら素材の特徴を生かして,組み合わせて作ること,また作ったものを使って友だちとごっこ遊びをすることが楽しい様子がうかがえる。

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