ⅲ)K児から読み取った「やりたい」をもとに援助を行う保育者 (2)領域と教科の接続のタイミング ~領域における子どもの対象との関わり~ - 26 - うに,丈夫な梯子をつくりたい”という思いがあったのではないかと捉えた。 K児はこれまで,2階や3階建ての家をつくったり,友だちが安心して上の階へのぼることができるように丈夫な梯子をつくったりしていた。保育者は,その姿から,K児は“家に来る友だちが遊びやすいように,丈夫で本物のような家をつくりたい”と思っているのではないかと捉えた。そして,K児は今後,本物の家のようにするためには,どんな素材で何を作り足していけば良いのかを考えながら,さらに扉や窓,玄関,屋根などをつくって楽しんでいくのではないかと考えた。 そこで保育者は,様々な素材から選んだり組み合わせたりして家を建てることができるよう に,木材に加えて,段ボールやプラスチック段ボール,丸太などを用意した。 すると,K児はプラスチック段ボールをおうちの窓に見立て,「これぜんぶ使って,そこら中に窓をつける!」「でも,ここは付けないで玄関にする!」と保育者に言いながら,プラスチック段ボールの四隅と辺の真ん中をガムテープで木枠に貼り付けた。また,友だちが偶然斜めに置いたプラスチック段ボールを見つけて「滑り台だ!」と友だちと一緒にそれをガムテープで固定し,「もっと丈夫にしなきゃ」とつぶやきながら,そこに釘を数カ所打ち付けた。さらに,「丸太をおいて打ったらもっと固定できるよ」と言うと,木材置き場から持ってきた丸太とプラスチック段ボールを釘で打ち付けて遊んでいく姿が見られた。 ⅳ)K児の育ちを見つめて K児は,滑り台を固定するときは,ガムテープのみでなく,釘を数カ所打ち,さらに丸太も使って固定するというように,固定する方法を様々な素材を使いながら考えていた。これは,釘を数カ所打ち込むことで丈夫な梯子をつくることができた自身の経験があったからこそ見られた姿ではないかと考えられる。 そして,このようにK児が丈夫な滑り台をつくっていくことができたのは,保育者が,木材以外の素材も選んだり試したりすることができるように,段ボールやプラスチック段ボール,丸太などの特徴が異なる複数の素材を用意したことで,“丈夫で本物のような家をつくりたい”というK児の思いを支え,さらに「やりたい」がふくらんでいったからだと考えられる。 また,今回の事例のように,“丈夫にするために梯子の釘を2本打ち付けよう”や,“丸太をおいて打ったらもっと固定できる”というアイディアがK児から多く出てきた。それは,K児がうまくいかないと感じているときに,保育者からはあえて声をかけず,K児がそれまでの経験から,素材の特徴を生かしたアイディアを思い付き,工夫して乗り越えていくだろうと考えて見守り続けたからこそ出てきた姿ではないかと考えられる。“2本釘を打ち込めば丈夫な梯子ができる”と見通しが立ったとき,思わず保育者の方を向き,考えを認めてもらえたことを感じたK児は,滑り台をつくる場面でも,“この素材を使えば丈夫になるのではないか”と考え,自信をもって丈夫な滑り台をつくろうとしていったのではないか。環境の構成もさることながら,K児に対する保育者の関わり方も,重要な援助の一つなのだとわかる。 このように保育者は,目の前の子どもの遊ぶ姿から,常にその子どもの「やりたい」という思いを捉えようとしてきた。子どもの「やりたい」という思いを捉えることが,環境の構成や直接的な援助を考えていく際の根拠になる。そうやって,子どもの遊ぶ姿から,一人一人の「やりたい」という思いを捉え,環境の構成や直接的な援助を考えることで,子どもたちは夢中になって遊びながら対象との関わり方や遊びの幅を広げ,さらに「やりたい」ことをふくらめて遊び続けていく姿が見られるようになった。これは,子どもが今後自ら課題を決め出し探究していくことにつながっていく礎となる姿であると考える。目の前の子どものありのままを見つめ,その子どもの「やりたい」を捉えようとし続けていく日々の保育の営みの大切さを感じる。 【事例①】単元名:「もっと大きくなってね わたしたちのあい」 【2年 かがく領域】
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