22Shinshu UniversityIntegrated Report 2024MESSAGE21世紀に入り、美術の考え方も変化してきました。「モノ」中心の鑑賞ではなく、「コト」を楽しむ新たな価値観が広がってきたのです。例えば、今や全国に広がっている地域芸術祭では、美術館の中だけでなく、街中や自然の中に芸術作品を設置し、周辺の風景と併せてその作品を鑑賞する“体験型”の取り組みがされています。もともと私は美術館の学芸員として、イタリIntegrated Report 2024 Shinshu University信州大学は、大学内での188bet体育_188bet备用网址にとどまらず、地域や環境といった広がりのあるファクターを取り入れながら、地域社会と連携した教育活動を行っています。例えば人文学部の金井直教授はアートを軸にこうしたことに取り組んでおり、学生が地域と交流を図りながら、松本市内で展覧会やワークショップを企画?開催する活動を行っています。学生自身がどのようなアーティストを呼びたいか、どこで開催するのかまでも考え、主体的に展覧会を計画します。また会期中は会場に学生が常駐することで、訪れた様々な人との交流の場にもなっています。ワークショップについては、松本市で工芸に関する企画展を長年開催している「工芸の五月実行委員会」とも連携し、県内外から4万人もア美術の188bet体育_188bet备用网址や展覧会企画などに携わってきましたが、こうした変化を受け、「アートに関わることは美術館の中でできることだけに限らない」という思いから信州大学に移ってきました。本学には、美術分野で閉じるのではなく、音楽やパフォーマンスとつないで広くアートを経験する枠組みがありました。また、松本には“今日のアートをどう考えるか”という部分に軸を置き188bet体育_188bet备用网址活動を展開するためのシーズがたくさんありました。こうした好環境を活かし得たのは幸運でした。現在も学生と共に多くの方々と関わりながら、この地でアートの可能性を追求し続けています。今後、学生が地域とより深くつながり、信州大学がこれまで以上に地域に開かれた大学になるには、大学自体がいわば街の回廊となり、地域の方々が自由に行き交うようになる姿が一つの理想だと考えます。松本キャンパスの出入り口のうちで、が訪れる松本クラフトフェアの日に合わせて実施しています。松本市立博物館を起点に、市内の橋や井戸を見ながら行った街歩きワークショップでは、観光客や市民の方々との触れ合いなども通して、自分たちが暮らしている地域について改めて考える機会をつくりました。文化芸術活動に企画段階から関わることで、現場の空気を肌で感じる―こうした経験を経て、「文化芸術を大切にできる社会を作りたい、そうした街づくりに関わりたい」という思いを抱き、学芸員資格を取ったり、公務員という進路を選択する学生も多くいます。松本キャンパスのある松本市は、古くから“学都”と呼ばれ、「学生と共にある町」という風土が根付いていると同時に、学生たちの自由な活動を受け入れてくれる土壌が醸成されています。信州大学は「地域と共にある大学」として、この土壌を守っていきたいと考えます。東門側は女鳥羽川や学生たちが多くいる浅間温泉あたりともつながっています。ここを文化と日常の交差路としてよりオープンにし、一般市民の方が散歩の途中で大学を通り抜けるような光景が当たり前になったら嬉しいですよね。学生が地域に飛び出すだけでなく、地域の方々にも大学へもっと来てもらう。松本キャンパスに地域の方々が集って、例えばアートに関する公開講座やイベントに何気なく参加できる―そんな“柔らかい関係“をつくり出していけば、大学は一層深く地域に溶け込んでいくのではないでしょうか。ゼミ企画「井上唯 ITONAMI 風に向かって旗をかかげる」展(2023年)よりアートを軸に展開する地域と大学との多様な交流「モノからコトへ」と変化した価値観の中である一つのアート作品を鑑賞し、その美しさに感動する人もいれば、歴史的な価値を感じる人や、金銭的価値を見出す人もいます。このように、多様な価値を包含しているところに文化芸術の面白さがあると思っています。自分と他者との違いを認め、受け入れ、理解する―そのようにして利害を超えて“生き方の柔らかさ”をつくっていくのが文化芸術であり、その多様性こそが私たちの市民社会を形づくっているのではないでしょうか。大学を“地域の回廊”の一部に地域と共にある大学相互に連携協力する豊かな関係性信州大学は、文化芸術などの教育活動を通し、地域社会と積極的に関わっています。それにより、地域社会と大学とが相互に連携協力する豊かな関係性を築いています。大学と地域が緩やかにつながる“柔らかい関係”をアートでつくる信州大学 学術188bet体育_188bet备用网址院(人文科学系) 学長特別補佐 人文学部副学部長金井 直 教授
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