C:培地中のアンモニア濃度の時間変化AA図.ギ酸資化菌培養実験A:ギ酸資化菌の培養風景B:1リットル当たりのギ酸取り込み量(積算)の推移BBCC2023年12月ドバイで開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)で、COPとしては初めて「化石燃料からの脱却」に向けたロードマップが承認された。この背景には、深刻化する温暖化がある。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)において、世界中から集められた気象学者が認めた通り、化石燃料の燃焼によって放出される二酸化炭素が温暖化の主要因であることが動かしがたい事実となっている。「化石燃料からの脱却」は既定路線であり、我が国もその路線から外れて存在することはできない。化石燃料掘削産業への投資は急速に減少すると考えられ、エネルギー分野のみならず、材料化学分野も脱石油を進めなければならない。このような背景から、二酸化炭素を“資源”と考え、二酸化炭素と再生可能エネルギーから有用物質生産を行うPower to Anything(P2X)技術に注目が集まっている。P2X技術は、化学的な手法と生物学的手法の2つに分けることができる。化学的な手法として、メタネーションやフィッシャー?トロプシュ法などがあり、二酸化炭素を低分子化合物に変換することができる。反応速度は高いが複雑な化合物を合成することはできない。生物学的手法として、藻類や水素細菌の利用が挙げられる。藻類は光エネルギーによって二酸化炭素を固定し、様々な物質を生産することができるが、変換効率および反応速度は低く、事業化における高いコストが課題となっている。水素細菌は、水素エネルギーを利用して二酸化炭素を固定し、生分解性プラスチックなどをよく生産するが、水素ガスの危険性や低い溶解性がネックとなっている。我々は、化学的手法によって二酸化炭素をギ酸やメタン、エタノールなどのC1もしくはC2化合物に変換し、それらを生物学的手法によって付加価値の高い高分子化合物に変換する“化学”と“生物”のハイブリット方式に注目している。C1もしくはC2化合物のうち、ギ酸は可燃性や揮発性が低く、安定な物質で、かつ高い選択性で合成可能である。ギ酸を出発物質とした化学工業は未発達であるが、ギ酸をエネルギーおよび炭素源として生育するギ酸資化菌が知られている。ギ酸資化菌は、ギ酸を原料に細胞を構成するあらゆる高分子を合成する能力を持つ。すなわち、ギ酸資化菌を有効に活用すれば、二酸化炭素と再生可能エネルギーを原料に、タンパク質、脂質、バイオプラスチック(ポリヒドロキシアルカネート)などの高分子を得るP2X技術を実現させることが出来る。我々の188bet体育_188bet备用网址室では、新規ギ酸資化菌の探索と培養系の確立を目指している。当188bet体育_188bet备用网址室で単離されたギ酸資化菌na_s_72株は、ギ酸Fed-batch式培養(ギ酸を逐次投入する培養)で1リットルあたり湿潤バイオマス収量4 g/日、ギ酸消費量4.5g/日を記録している。この培養方式では、培養初期では細胞密度が低いために1リットルあたりの生産性が低く、アンモニアやリン酸などの養分が枯渇する培養後期では細胞活性が低下する。また、培養後期では、細胞活動を阻害する物質(老廃物)が蓄積している可能性が示唆された。そこで、培養を通して養分を含んだ溶液を連続投入しながら高い細胞密度を維持する連続培養系で、老廃物を希釈することができ、生産性は数倍に向上すると考えた。連続培養には、養分消費速度や増殖速度の細胞密度依存性を明らかにする必要がある。卒業論文188bet体育_188bet备用网址では、高密度培養(600nmにおける吸光度が20)時のギ酸消費量や培地養分濃度変化、湿潤バイオマスを調べた(図A)。その結果、1リットルあたり湿潤バイオマス収量20g/日、ギ酸消費量35g/日を記録し(図B)、5?8時間後には窒素源であるアンモニアが枯渇することが明らかになった(図C)。窒素源の枯渇によって、活性が低下していると考えられるため、窒素源を逐次添加することでさらに約2倍の収量が期待できる(図Bの点線)。今後は、さらなる高密度培養と培養条件の最適化、高密度培養に適した株の探索等を進めるとともに、高い窒素取り込み能力を下水処理に応用する試みを進める予定である。環境へのShinshu University Environmental Report2-1 環境教育卒業論文農学部農学生命科学科生命機能科学コース 森本 巧人二酸化炭素と再生可能エネルギーからの生分解性プラスチックや食料を生産する1802取り組み修士論文?卒業論文
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