信大NOW145号
15/20

ロングインタビューバージョンはWebでご覧いただけます。14医師専用コミュニティサイト「MedPeer(メドピア)」がって、まじめなやりとりをする場所があれば絶対に喜ばれるはずだという確信がありました。そういうものがあったら、自分も利用したいですし、絶対に魅力があると思ったのです。 僕はよく会社で「理念と利益の最大化」について話します。どちらかだけを追うのではなく、その両方を最大限にすることが社会に一番大きなインパクトを与えるという考えです。本を読んで、「そのための箱として株式会社がある」ということが腹に落ちたんです。それによって、この取り組みはやる意義があるのではないかと思いました。 医師であり起業家でもあるという人は日本にはほとんどいないので、いわゆる業界の“ファーストペンギン”だと思っています。 そしてもう1つ、サイドビジネスを始めた理由の1つに、「お金のために働きたくない」という思いもありました。自動でお金が入ってくる仕組みがあれば、お金のために働かなくて済むので(笑)。 一旦はそのサイドビジネスで小さく成功はしたのですが、先輩にこれからどうしようかと相談した際、「中途半端は絶対にやめた方が良い」と言われました。「半端に、もうちょっと稼ぎたいという思いだけでやるのは、迷惑が掛かるからやめておけ」…と。川﨑:医師というのは、「社会で育てる」感覚もあると思います。「MedPeer」は、それに近いのかなと思いました。石見:僕の場合、現在は患者さんを直接的に治すという貢献はできないのですが、間接的な還元はできます。我々はミッションとして、“Supporting Doctors, Helping Patients.”を掲げています。ドクターをサポートするための形としてのコミュニティがありますが、それはドクターをサポートするためだけにあるのではなく、患者さんを救うための手段でもあるのです。患者さんを救うためにメスを握る人もいれば、投薬する人もいる。そして僕は会社というツールを使って、“Helping patients”に向かうということをすごく意識していますね。薬版の「食べログ」風サービスを作ったのが転機に川﨑:メドピアという会社を設立してから、大きな転機はありましたか?石見:医師の目線で薬を評価するという世界観が当時まだ無かったなかで、薬版の「食べログ」のようなサービスを作ったのが転機となりました。 医師の世界におけるソーシャルメディアはなかったので、新しい試みでした。そして、医師による薬の口コミを掲載するページに、製薬会社が広告を出稿したのです。そこには多くの医師が見に来ているので、そのタイミングで製薬会社から情報提供してもらうことで、広告効果が見込めます。これがビジネスとして今の収益の柱にもなっているのですが、そこが立ち上がったのがすごく大きかったですね。川﨑:製薬会社にとっては、医師にうまくアプローチできるツールになったわけですよね。医師としても、自分の直接の知見ではなくても、そこで会話したり情報を得ることが、良い診療につながることになると。石見:そうですね。医学の世界では、根拠に基づく医療=“Evidence-Based Medicine”(EBM)のマニュアルがすごく整備されているのですが、患者さんはそれぞれに違うので、マニュアル通りにはいかないんですね。多くの医師が状況に応じてそれぞれチューニングをしているのですが、そのナレッジ=集合知を集めて一人一人の医師に還元していくという発想がなかったんです。EBMがなくなることはないですが、もう一方で経験の集合知によって医療が適正なものになっていくという世界観ですね。川﨑:今まで10年以上会社を運営されてきたわけですが、この先どういうふうにメドピアは変わっていきそうですか?石見:「登山に例えて何合目まで来たか」という質問を時々いただくのですが、心からまだ1合目だと思いますね。ようやく日本の医師の約半分の方に「MedPeer」会員になっていただいたところです。競合の会社ももちろんありますが、日本の医師の約半分に情報を提供できる体制というのは、弊社と他の数社しか持っていないので、まさにここからが始まりだと思っています。“Supporting Doctors”が収益の柱でもありますが、これからは患者さんを救う“Helping Patients”に向けて何ができるのかというところですね。IT企業としてのナレッジと医師のネットワークを活用し、患者さんを救うところにきちんと向き合っていく―、そういうサービスをどんどん作りたいと思っています。 現在、会社として3つのセグメントがあります。1つ目が「集合知プラットフォーム」と呼んでいる医師のコミュニティです。ビジネス面で大きな柱となっており、既存事業ですが、さらに深堀していきます。 2つ目に、「予防の領域」があります。究極の“Helping Patients”は患者さんを発生させないことなので、予防の領域の事業にも力を入れています。 そして3つ目に、病院でDX事業を進める「医療機関支援プラットフォーム」というものがあり、今信大病院にも提案しているところです。病院でDXが進んでいけば、効率的かつ安全に医療に取り組めると思っています。川﨑:今日は短い時間でいろいろなお話をしていただき、ありがとうございました!培った志を胸に、社会で活躍する素敵な大人たちchapter.06信大同窓生の流儀

元のページ  ../index.html#15

このブックを見る