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柳田邦男文庫寄贈記念インタビュー10約15,000冊の寄贈図書のうち柳田邦男氏の著作(一部)真ん中のサインは『空白の天気図』絡み合いながら、科学技術や政治、行政、法律といった専門性の高い事柄で様々な問題が顕在化しています。例えば、事故や災害、都市の過密化、公害などの問題がありますね。ノンフィクションは従来の小説家が手を出さない、あるいは手を出せなかったこうした専門性の高いテーマを扱うことなどから、私は魅力を感じて60年代から取材と執筆に取り組んできました。政治、行政、企業などの影の部分に深く切り込んだ立花隆氏や、戦争社会の問題をそれぞれの時代の女性の視点からとり上げた澤地久枝氏などの功績により、70年代から80年代に掛けて日本においてノンフィクションのジャンルは確立されていきますが、私もその一端を担ってきたと意識しています。1936年、栃木県生まれ。ノンフィクション作家、評論家。現代における「いのちの危機」をテーマに、戦争、災害、事故、原発、病気、事件などについて、60年以上にわたり、取材と執筆を続けている。1972年に『マッハの恐怖』で第3回大宅壮一ノンフィクション賞、1979年に『ガン回廊の朝』で第1回講談社ノンフィクション賞、1995年に『犠牲―わが息子?脳死の11日』とノンフィクションのジャンル確立への功績が高く評価され菊池寛賞を受賞している。実は大学1年生の時に文学のジャンルを目指したこともありました。しかし、同時期に同じキャンパスで学んでいた2年先輩の大江健三郎氏のデビュー作を読んで、自分はこのようには書けないな…と思い、他の道を選ぼうと思いました。そして、人間と社会の生(なま)の現実を書こうと思い、まずNHKの記者になりました。その後、38歳の時にフリーになりましたが、NHKでの経験は私の現場取材の礎を築き、とても学びの多いものでした。先輩たちから事実の背景にある問題を掘り下げることの重要性を教えていただいたことや、最初の赴任地広島での原爆被爆者への取材などは、その後にフリーのノンフィクション作家として活動するうえで大きな財産になりました。貴重な学生時代経験の一つひとつを大切に―最後に、学生に対してメッセージをお願いします。これは、今日この信州大学に来て一番語りたかったことです。学生時代はまだ“白地図”の状態で、自分の地図をどう描いていくかは未知数です。それだけに、あれもやりたい、これもやりたい…と自分の進むべき方向を決めきれなかったり、あるいは逆に、自分のやりたいことが見つけられなかったりする人もいます。悩みが多い時期ではありますが、学生時代は「可能性を自分の中に少しずつ蓄積していく時期である」という意識を持つことが大事だと思っています。そのような意識を持ち、例えば本を読むとか、あるいはソーシャルリサーチなどに参加して現場に足を運ぶとか…、何でもいいから動いて考えて経験してみること。そして、その経験の一つひとつを大事にしていくことが、いつの日かものすごく自分の人生にとって役立つ時がくるはずです。私自身も学生時代には悩みながらも、世の中の事柄について問題意識を持ち、本を読んで自分なりに考えたり、友人と熱い議論を交わしたりしました。いま振り返れば、未熟な考えや議論であったかと思いますが、たとえそうであっても、その時の経験が、社会に出て自分が世の中の物事を考える際にものすごく大事な材料になっていると感じます。こうした経験ができるのは、若い時しかありません。社会に出ると、多くの人は訳知り顔で「世の中や社会とはこういうものだ」と固定観念を持って決めつけるようになりがちです。そうなってしまうと人生は面白くなくなってきます。白地図の学生時代に、悩みながらも、本を読み、考え、議論し、現場に足を運んで、ぜひ色んな経験をしてください。今回の蔵書の寄贈がその動機づけになれば幸いです。柳田 邦男 PROFILE

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