サヴァイヴァル□アーツ生KANAI Tadashi 人文学とは何でしょうか。一言でいえば、人間についての学問です。生きることを考える、考えることを生きる、そのような経験の体系です。 ところで、信州大学の場合、「人文学部」の英語訳はFaculty of Arts となっています。この Arts は Liberal Arts、つまり自由学芸の意で、自由に生きるための技芸と解されますが、私はそこにアート/芸術の意味もあえてくみとっておきたいと思います。というのも、芸術には多くの場合、表現?独自性とは別に、批判や観点変更、価値づけの力が具わっているからです。ただの気晴らしや(一般的な意味での)趣味?教養には留まらないのです。同様の強みが、人文学というアーツにもあるのではないでしょうか。 私たちの日々の暮らしには、とかく習慣や習性、利害や合理性、経済性が働いて、近道や早道が選ばれがち。要は考える手間や立ち止まる時間が省かれるのですが、その結果として別の可能性や他の視点も失われがちです。コスパ、タイパの発想は本当に豊かでしょうか。ウイン- ウインの発想は外部の “ 敗者 ” を置き去りにしてはいないでしょうか。このことは実はとても大きな問題です。かつてであれば、「数は力」的なヴィジョンの統合や、選択?集中による全体の成果もそれなりに期待されたでしょうが、今日のように複雑化?不安定化する社会や環境下では、私たちは予測困難な問題に絶えずさらされることになります。とすれば、むしろ方向転換や観点変更、他の可能性の余地を常に維持しておくことこそが持続可能性の支え、本質的な危機管理となるのではないでしょうか。 ここにおいて人文学的な実践の意義と強みが明らかとなります。絶えず外に開かれ、常に他と交わりながら─近道?早道よりも□り道です─人間を多様な観点から広く捉え、深く学ぶ術。それは学問の一方法を超えた存の技術といっても過言ではありません。 つまり、人文学が結論や評価を急がない “ 遅い ” 学問であることには訳も価値もあるということです。幾世紀もの時を経た芸術が、今も私たちに感動を約束するように、人文学の力 faculty が、あなたの生の実感を絶えず支え続けることを願っています。9信 州 大 学 人 文 学 部 長金 井 直
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