志を持っていきいきと活躍する信大同窓生を描くシリーズの第12回は、山岳ジャーナリストの近藤幸夫さん(農学部卒業生)をご紹介します。国の特別天然記念物であり、山岳信仰と結びついて“神の鳥”とも呼ばれるライチョウ(雷鳥)。近藤さんはその魅力に取りつかれ、中央アルプスでの「復活作戦」の密着取材に人生を掛けて取り組んでいます。昨年4月には、作戦の濃密な記録をまとめた書籍も出版しました。自らも調査を手伝うなど、ジャーナリストの枠を超えてライチョウの復活に情熱を注ぐ近藤さん。その源はどこにあるのか、長野市のオフィスでお話を伺いました。どうこんゆきお善光寺表参道の裏通り、40年以上使われなくなっていた町工場をリノベーションした建物があります。古本屋、カフェ、建築設計事務所などが入居する部屋を横目に進み、突き当りの急な階段を上がった先にあるのが、山岳ジャーナリスト 近藤幸夫さんのオフィス。そこはまるで山小屋のような雰囲気です。近藤さんは信州大学農学部を卒業後、1986年に朝日新聞社に入社しました。初任地の富山支局(現富山総局)で北アルプス?立山連峰を中心にした山岳取材を担当。ここから山岳専門記者としてのキャリアをスタートさせ、大阪や東京本社運動部(現スポーツ部)在職中は、南極や北極、ヒマラヤなどの海外取材を多数経験したそうです。そして、2013年に東京本社スポーツ部から長野総局へ異動。2021年に早期退職し、現在はフリーの山岳ジャーナリストとして、長野市を拠点に様々な媒体を通じて発信を行っています。そんな近藤さんのライフワークと言えるのが、中央アルプスでの「ライチョウ復活作戦」の密着取材です。中央アルプスでは、かつてライチョウが生息していましたが、20世紀後半には激減し、1970年代には絶滅したと考えられていました。しかし、2018年夏に中央アルプス?木曽駒ケ岳で1羽のメスのライチョウ(飛来メス)が確認され、これをきっかけに翌年から、鳥類学の権威である信州大学名誉教授の中村浩志さんを中心に、環境省、動物園などが連携した“復活作戦”がスタートしました。これは、北アルプス?乗鞍岳から移送したライチョウ3家族(計19羽)と飛来メスの集団を元に繁殖個体群を復活させるプロジェクトです。動物園で繁殖させたライチョウの野生復帰も目標に掲げています。「過去に富士山や金峰山で同じようなことに挑戦して失敗しているわけですよ。夢のようなプロジェクトだと思いました」と近藤さんはスタート時を振り返ります。当時、近藤さんは朝日新聞社(文?佐々木 政史)の記者として、この復活作戦に密着取材。50回以上も木曽駒ケ岳へ登り、復活作戦の取り組みを追いました。朝5時に起き、土砂降りの雨に凍えながら、ライチョウ探しの調査を手伝ったこともあるそうです。「もう、記者というよりは、気付いたら中村先生の秘書のような感じになっていました」と苦笑する近藤さん。1年目は失敗に終わりましたが、雪辱の2年目からは見事に成功し、中央アルプスでライチョウは徐々に増えていきました。しかし、プロジェ大手新聞社を退職してでもライチョウの復活を追う培った志を胸に、社会で活躍する素敵な大人たち11chapter.12山岳ジャーナリスト“神の鳥”に魅せられた山岳ジャーナリスト夢の「ライチョウ復活作戦」密着取材に人生をかけるさん信大同窓生の流儀近藤 幸夫農学部卒業生
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