銀河と巨大ブラックホールの隠された関係に迫る
総合人間科学系 (全学教育機構) 准教授 三澤 透
立派に成長した銀河の中心には、ほぼ例外なく巨大なブラックホール(以下、銀河中心BH)があります。銀河と銀河中心BHは大きさにして最大10桁の違い(例えば、地球全体と1円玉ほどの違い)があるにも関わらず、その質量比がいつも1000倍程度であるという不思議な関係があることが知られています。しかしその理由はまだ分かっていません。
内側からの影響(アウトフロー)
この不思議な関係を説明するためには、銀河と銀河中心BHが何らかの方法で情報を交換する必要があります。このメッセンジャーの最有力候補の一つが、銀河中心BH付近から、輻射圧と呼ばれる特殊な力を受けて噴き出しているガスの流れ(以下、アウトフロー)です。アウトフローは銀河全体に広がり、銀河の成長に何らかの影響を与える可能性があります。一方で、その内部にはガスがぎっしり詰まっているのか、あるいはすき間があるのかはよく分かっていません。そこで私たちのグループは、約100億光年かなたにあり、強い重力レンズ効果(注1)を受けているクェーサー(注2)2天体の観測を行いました。この効果を受けた天体の光は異なる経路をたどり、複数のレンズ像として地球に届けられます(図1)。観測の結果、アウトフローを別の方向から見た情報を持つ各レンズ像が、異なる性質を持つことが分かりました。これは、アウトフローの内部は一様ではなく、うろこ雲のように小さな塊が集まったものであることを示唆します。この結果は、直接的な観測によってアウトフローの内部構造を確認した初めての成果として、学術論文4本(注3)で報告済みです。
外側からの影響(銀河周辺ガス)
銀河の成長は、銀河中心BHの影響(内側からの影響)のみならず、銀河周辺にあるガスの影響(外側からの影響)も受けます(図2)。銀河の周囲には、銀河から放出された物質もあれば、周囲から落下してきた物質もあり、まさに物質の「社交場」となっています。この「社交場」を調べる観測を、すばる望遠鏡(注4)を用いて2017年の年末に着手しました。今後も観測を継続する必要がありますが、十分なデータが集まれば、銀河進化に対して内側と外側から迫ることが可能になり、その結果、「ブラックホールと銀河の不思議な関係」に対する新しい知見が得られるかもしれません。
注1:背後にある天体が、手前にある別の天体の重力の影響で複数に分かれて見える現象。
注2:一部の遠方銀河が持つ、銀河全体の100倍以上もの光度を放つ中心領域。
注3:最新のものは Misawa et al. 2018, The Astrophysical Journal, 854, 69。
注4:日本がハワイ島に建設した口径8.2メートルの巨大望遠鏡。