高山植物の動き方
日本の高山植物のほとんどは、日本を分布の南限としています。これら高山植物がどのように日本に侵入したかを調べるために、分子系統地理学的な解析が進められてきました。そして、高山植物ごとに独自の侵入過程を経ていることが示唆されています。例えば、ヨツバシオガマやイワウメは、東北地方を境にして北方系統と本州中部系統という2系統に分類されることが分かりました。これは氷期と間氷期が繰り返される間に、日本への複数回の侵入があったことを示唆します。一方で、ツガザクラのように日本には1系統しかないものもあります。植物ごとに分布変遷の歴史があり、高山植物として一括りには出来ないことが分かっています。
マメ科高山植物のパートナーの動き方
高山植物ごとに分布変遷の歴史があるのなら、その共生相手はどうでしょうか。マメ科植物は根粒菌と共生することで、大気中の窒素を栄養として利用することが出来ます。高山帯のほとんどは貧栄養土壌なので、マメ科植物がパイオニアとなり土壌の栄養化を担っているところが多く見られます。マメ科植物—根粒菌共生系はある程度厳格な宿主特異性を有していますので、まずは日本の各地のマメ科高山植物がどのような根粒菌と共生しているか、その種類を調べてみました。
イワオウギとオヤマノエンドウそれぞれに共生する根粒菌の遺伝子を調べてみたところ、宿主植物種ではなく山域ごとに共生根粒菌種が決まっているという傾向が示されました。これは、マメ科高山植物が日本に侵入した後に、山域ごとに新たな共生関係を築いたことを示唆します。一方で、共生に必要な遺伝子群は宿主ごとに決まっていました。これは、高山植物と根粒菌が一緒に日本に侵入したことを示唆します。この一見矛盾する2つの結果から、高山植物と一緒に侵入した共生根粒菌の共生遺伝子群が各山域の土壌細菌に水平伝播した、ということが考えられました。現在この仮説の実証を試みていますが、分散様式が異なる高山植物と共生菌が一緒にグレートジャーニーしていたかも、と考えると何とも愉快な気分になります。