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自然科学?人文社会科学

公開日:2025年2月17日 14:19

理学部種多様性を生み出す!!高山帯の過酷な環境で生きる生物の遺伝子を解析!

信州大学学術188bet体育_188bet备用网址院(理学系) 教授 東城 幸治

 中部山岳域などの高山帯には、低温や凍結などの厳しい環境に適応し、独自の進化を遂げた生物が多く生息しています。東城教授らの188bet体育_188bet备用网址チームは、サハリントビケラという水生昆虫を対象に、その進化の過程を遺伝子レベルで解析しました。その結果、氷期と間氷期が繰り返される過程で、サハリントビケラは「別種」と見なせる2つの系統に分かれたことが明らかになりました。一連の188bet体育_188bet备用网址結果から、これまでの気候変動が新しい種を生むきっかけとなり、特に高山帯の特殊な環境が生物の進化や多様化を促してきたことがわかりました。

サハリントビケラの遺伝子を解析し、進化の過程と気候変動で受けた影響を調査

 地球温暖化が進む中、生態系の保全は重要な課題のひとつです。特に高山帯では、氷河や雪渓が急速に縮小し、低温や乾燥、強い紫外線といった過酷な環境に適応してきた固有の生物が絶滅の危機にさらされています。東城教授らは、冷涼な池沼や湧水に生息し、寒冷環境でも生き抜くサハリントビケラという水生昆虫を対象に、過去の進化の過程を遺伝子レベルで解析しました。また、過去の気候変動がサハリントビケラの分布域シフトや地域集団の接続や分断、さらにその結果としての遺伝構造に与えた影響を調査しました。

サハリントビケラは約200万年前に二つの系統に分かれていた

 サハリントビケラは、体長1?1.5cmほどのドビケラの一種です。188bet体育_188bet备用网址チームは、中部山岳地帯からサハリンに至る74地点でサハリントビケラ144個体を採取し、歩脚の一部などから全ゲノムDNA(※1)の塩基配列(※2)を取得しました。ミトコンドリアDNA(※3)の複数領域の解析から、サハリントビケラが約200万年前に二つの系統(系統IとII)に分かれたことが明らかになりました。このうち、系統Iは北海道や東北の比較的低地に広く分布しており、系統IIは本州中西部の高山帯を中心に散在していることがわかりました。

サハリントビケラ生息地、成虫と幼虫 (a)亜高山帯にある系統I の生息地(長野県:乗鞍高原 標高 約1,200 m)、(b)高山帯にある系統II の生息地(岐阜県:乗鞍岳 標高 約2,700 m)、(c)オス、(d)メス、(e)幼虫とその筒巣(いずれも乗鞍岳の高山帯で採取した系統II)

気候変動で新しい種が生まれる!高地が種多様性を支える!

 遺伝子解析結果から、「氷期と間氷期が繰り返された過程で、系統Iは比較的低地に生息していたため、移動が容易で広範囲に分布し、系統IIは高地に生息していたため、隔離された環境で散在的に分布している」と考えられました。さらに、高地の生物は、高地特有の過酷で隔離された環境の中で独特な生活スタイルを獲得しやすい(自然選択されやすい)ことがわかりました。また、その後の188bet体育_188bet备用网址では、同じ乗鞍岳の系統IとIIの間でも、生殖時期にはズレが生じており、「別種」と呼べるほどの遺伝子変異の蓄積が示されました。すなわち、気候変動は新しい種を生むきっかけとなり、特に高地は種多様性を支える重要な場であることが明らかになりました。

ポイント

  • 東城教授らは、高山帯の過酷な環境に生息する水生昆虫サハリントビケラを対象に、進化の過程を遺伝子レベルで解析するとともに、気候変動が与えた影響を調査した。

  • ミトコンドリアDNAの解析から、サハリントビケラは約200万年前に2系統に分かれ、系統Iは低地に広く分布、系統IIは高地に散在しているとわかった。

  • 気候変動が新たな種を生むきっかけになり、特に過酷で隔離された高山帯の生物は、低地とは異なる生活スタイルが獲得されやすい(自然選択されやすい)ことが示された。

用語説明

※1 全ゲノムDNA

生物の全遺伝情報を含むDNA(デオキシリボ核酸)で、核DNAやミトコンドリアDNAなどが含まれる。生物の設計図とされる。

※2 塩基配列

DNAは、アデニン、チミン、グアニン、シトシンの4種類で構成され、塩基配列はその並び順を指す。塩基配列によって作られるタンパク質が決まる。

※3 ミトコンドリアDNA

細胞内のミトコンドリアがもつ環状DNA。特定の領域(COI、16S rRNAなど)の配列情報が生物の進化系統学的な解析によく利用される。

論文情報

雑誌名:Ecology and Evolution. 2024; 14:e11428.
論文タイトル:
Variations in the phenological patterns of a caddisfly inhabiting the same mountain massifs: Life‐history differences in different altitudinal zones.
著者:Hirohisa Suzuki, Masaki Takenaka, Koji Tojo

https://doi.org/10.1002/ece3.11428(論文へリンク)

188bet体育_188bet备用网址者

東城 幸治

所属

信州大学学術188bet体育_188bet备用网址院(理学系) 教授 

リンク
https://soar-rd.shinshu-u.ac.jp/search/detail.html?systemId=OCcebhLh&lang=ja
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 今回の188bet体育_188bet备用网址は、本論文の筆頭著者である鈴木啓久さんが私の188bet体育_188bet备用网址室の解析手法を引き継ぎ、発展させたことで実現できた。彼は社会人大学院生であり、高校の理科教諭をしている。過酷で密なスケジュールによる高山帯でのフィールドワークや新たな遺伝子解析に苦労しながらも、新たな知見を得られたことは大きな成果。

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