学校の先生とお話しすると、子どもたちが石ころを拾ってきて、「これ何?」と聞かれて答えに困ったなんてことをよく耳にします。
そんなときは、その石ころにどんな特徴があるのかを、一緒に観察してみると良いと思います。一緒に観察して、石ころの鑑定をするためのコツ(基礎知識)を紹介したいと思います。
石ころ鑑定のコツ
石と岩石のちがいってなんでしょう?
まずはウオーミングアップ。石と岩石という言葉。どんな違いがあるか、わかりますか?
石は、岩石のほかにも鉱物(結晶)ひと粒からできたものも指す言葉です。たとえば、ダイヤモンド、エメラルド、ルビーなどは宝石(宝物になる"石" )と呼ばれますよね。
これに対して岩石は、鉱物やガラスが集合してできたものを指す言葉です。ためしに、花こう岩を観察してみましょう。白い粒(斜長石)、あわいピンク色の粒(カリ長石)、透明感のある灰色に見える粒(石英)、黒い粒(黒雲母)と呼ばれる4種類の鉱物が集合してできていることがわかります。
というわけで、石の方が、岩石よりも広い意味で使われる言葉だということがおわかりいただけたのではないかと思います。
岩石の名前の中にかくれた本質を考える(名前は大切!)
いきなり岩石の名前だと、ハードルが高い感じがするので、私たちの名前の大切さについて考えてみましょう。私たちの名前がなぜ大切なのかといえば、その中に「願い」がこめられているからではないでしょうか? みなさんの名前の由来や意味を考えてみてください。私たちは赤ん坊として誕生し、大人へと成長していきます。赤ちゃんには「これから」があるから、あんな大人になってもらいたい、こんな人生を送ってもらいたいという「願い」を名前にこめるのだと思います。
では、岩石はどうでしょうか? 岩石に手足が生えて歩き出す、なんてことはありえませんよね。当たり前ですが、岩石は成長するわけではないので、岩石の名前の中に「これから」は含まれません。その代わり「これまで」、言いかえれば「でき方」が含まれているのです。これが岩石の名前に秘められた大切な部分だと考えています。
たくさんの岩石の名前を「でき方」まで含めて覚えるのは大変です。そこで、まずは火成岩、堆積岩、変成岩という名前にこめられた意味(でき方)を考えてみましょう。
火成岩
「岩」は岩石、すなわち鉱物やガラスの集合体を示しています。「成」は、「なる、できあがる」という意味ですよね。
では「火」は何を意味するでしょか? 火山、噴火、火砕流。これらにも「火」が使われています。火山はマグマが噴出もしくは地表付近まで上昇してできる地形を、噴火はマグマが噴出すことを表しています。火砕流も読んで字のごとく、マグマが砕けた破片が高温の火山ガスとともに斜面を流れ下る現象のことを示します。このように、この3つの言葉は、すべてマグマに関する言葉です。というわけで、火成岩の「火」はマグマを意味しています。
ですから、「火成岩」はたった3文字の漢字で、マグマが冷えて固まってできた鉱物やガラスの集合体を示しているのです。
堆積岩
「積」は何かを積むという意味ですよね。では「堆」は何を意味しているのでしょう? あまり使わない漢字ですが、堆肥という言葉は、それなりに目にします。堆肥は植物片などの有機物を発酵、分解させてつくる肥やしですが、たいらに広げては乾燥してしまい発酵、分解は進みません。堆肥場やコンポストに高くつみあげて作りますよね。「堆い」で「うずたかい」と読みますので、堆積岩は、何かがうずたかく積みあがってできた岩石を示しています。
では何が積みあがっているかといえば、泥、砂、礫などの岩石の破片(泥岩?砂岩?礫岩)、サンゴや貝殻などの生物の硬組織の破片(石灰岩)、植物の破片(石炭)、爆発的な火山の噴火でできる火山灰(凝灰岩)をあげることができます。これらの破片は水の流れや大気の流れ(風)の作用を受けて掃き集められて、堆積物(地層)になり、それらが続成作用(かたい岩石になる作用)を受けて堆積岩に変化します。
また、水の作用を受けていれば堆積岩に含みますので、水から鉱物(結晶)が出てきてできる岩石、たとえば岩塩も堆積岩の仲間です。
変成岩
これが文字的にはもっともわかりやすいかもしれません。文字通り、何かが変化してできる岩石です。では何が変化をするかといえば、それは2つしかありません。火成岩と堆積岩です。火成岩、堆積岩としてできた岩石が、地殻変動によって地下深くに引きずり込まれ、高温、高圧にさらされて、新しい鉱物や組織ができて、変身してできたものが変成岩です。
ですから、キラキラしていて美しいことが多く、しま模様が見られることもあります。でも、高温?高圧にさらされてできるしま模様なので、堆積岩のしま模様(堆積構造)とはでき方が違います。ちなみに、火成岩(火山岩)にも流理構造(マグマが流動してしてできる構造)と呼ばれるしま模様が見られることがありますので、注意が必要です。
- 結晶片岩の礫 小渋川の河原に見られる
- 片麻岩の礫 中田切川の河原に見られる
ある岩石を火成岩だと判定するためには?
ある岩石を火成岩だと判定するためには、マグマからできた証拠を探さなくてはいけません。何をもってマグマからできたということができるでしょうか? 日本地科学社(ニチカ)の岩石標本を観察して考えてみましょう。
たくさんある火成岩のうち、まずどれを観察したらよいかというと、それは花こう岩です。花こう岩は4種類の鉱物(斜長石、カリ長石、石英、黒雲母)から主にできていますから、それらはマグマ(岩石の溶融体)から晶出する(結晶として出てくる)と考えられているということです。188bet体育_188bet备用网址に、マグマから晶出する鉱物がないか、火成岩標本を観察して探してみましょう。
かんらん岩
岩の「山」を消すとかんらん石になります。かんらん岩は主にかんらん石が集合してできているということです。
- No.7ずんだ餅みたいなかんらん岩
かんらん石と少量の輝石(色の濃い部分)が集まってできている
No.2輝石安山岩とNo.3角閃石安山岩
同じような黒い粒だが、よく見ると形がちがう。
輝石の方がコロッとしており、角閃石の方が長細い形をしている。
輝石安山岩?角閃石安山岩
輝石と角閃石を含む安山岩ということ。
これ以外に、鉱物の名称は見当たりません。すなわちこの7種類の鉱物(斜長石、カリ長石、石英、黒雲母、角閃石、輝石、かんらん石)が、主にマグマから晶出する鉱物だということです。ちなみにこれら7種類の鉱物を主要な造岩鉱物と呼び、これらが自形の形で多く含まれていれば、火成岩と考えて良さそうです。自形とは鉱物(結晶)の独自の形をさす言葉です。液体(マグマ)の中で結晶が成長すれば、結晶独自の形を保って大きくなると考えられます。
そういう目で、火成岩標本を見直すと、どう見ても主要な造岩鉱物が入っているように見えないものがあります。それは黒曜岩(黒曜石)です。
- 真っ黒でつるっとした黒よう岩(黒曜石)
割れ口は鋭い刃になる。気をつけないと手を切ってしまうことも。
黒曜石のかけらを光にかざすと、光を通す性質があることがわかる。鋭い刃の部分(薄い部分)が光を透過して明るくなっている。
つるっとしていて粒(鉱物)が入っているように見えません。小さな「かけら」を手に取ると、割れ口に手が切れそうな刃ができていることがわかります。また光にかざすと、薄い周辺部がうっすらと明るくなります。これは光を透過しやすい性質があるということです。身近なもので、割れると手が切れるものを連想すれば、ガラスが思いつくと思います。黒曜石は天然のガラスなのです。ガラスは珪砂やガラスを溶かしてつくります。ですから、ガラスが含まれていても、マグマ(岩石の溶融体)からできたと考えることができるのです。
というわけで、火成岩だ!と判定するためには、自形の主要造岩鉱物を含むor(andではない)ガラスを含めばよいといえそうです。
火成岩の区分
深成岩
等粒状組織で完晶質な(肉眼で見えるくらい大きな鉱物ばかりからできている)岩石であれば、じっくりと時間をかけて鉱物が大きく成長したと推測されます。ですからマグマが、温度の高い地下深く(地殻の深部)でゆっくりと冷え固まってできたと考えられます。そのような岩石を深成岩(深いところでゆっくり冷えてできた岩石という意味)と呼びます。
火山岩
斑状組織(もしくはガラス質)の岩石であれば、肉眼では見えない細かい鉱物やガラスからなる石基があります。ですから、石基はマグマが急激に冷えてできた部分と考えられるのです。急激に冷えるためにはマグマが地下から地表に噴出もしくは地表付近に上昇する必要があります。斑状組織の岩石は、噴火したり、地表近くに上昇したりしてできるので火山に多く見られます。そんなわけで、斑状組織で石基が肉眼で見えないくらい細かいものを火山岩と呼ぶのです。
ちなみに、火山岩の中の斑晶は肉眼で見えるくらい大きいので、マグマが地下にあったときに、ゆっくりと大きく成長した部分と考えることができます。
- 花こう岩:等粒状組織の代表
鉱物の色がそれぞれ異なるので、粒の大きさがだいたいそろっているのが良くわかる
- デイサイト:斑状状組織の代表
名前はマイナーだが、斑点状の大きな結晶(斑晶)が石基に取り囲まれた状態が良くわかる
深成岩の区分
本来は、SiO2の重量%で区分されますが、野外では測定できません。そこで、野外で深成岩を区分するときは、それらに含まれる有色鉱物(黒雲母、角閃石、輝石、かんらん石)の体積%(色指数)を使います。白っぽければ(色指数が低ければ)花崗岩、黒っぽければ(色指数が高ければ)はんれい岩、その間であれば、白いほうから花崗閃緑岩、閃緑岩のように区分します。
火山岩の区分
深成岩同様、本来はSiO2の重量%で区分されますが、野外では含まれる有色鉱物の種類を区分の目安にします。黒雲母が含まれれば流紋岩、角閃石ならデイサイト、輝石なら安山岩、かんらん石なら玄武岩に区分できることが多いです。
というわけで、火山岩を細かく分類しようとすると、有色鉱物(黒雲母、角閃石、輝石、かんらん石)を見分けられるかが、重要なポイントになります。(詳しくはこちら)
ホームセンターなどで販売されている赤玉土と鹿沼土を洗うと美しい有色鉱物を取り出すことができます。
- 赤玉土
- 鹿沼土
ある岩石を堆積岩だと判定するためには?
何かしらの粒子が、水や大気によって運ばれた証拠を探しましょう。日本は湿潤な気候なので、岩塩などの化学岩はほとんど見られません。泥岩、砂岩、礫岩などの砕屑岩や凝灰岩、凝灰角礫岩などの火山砕屑岩、チャート、石灰岩などの生物岩が多いです。
堆積岩の区分
泥?砂?礫などの岩石の破片(砕屑粒子)からできていれば砕屑岩、サンゴや貝殻などのように生物の破片からできていれば生物岩、岩塩のように水から結晶が沈降してできる岩石を化学岩(化学的沈殿岩)として区分されます。また、火山の爆発的な噴火によってできた粒子(火山砕屑物)が固まってできた岩石を火山砕屑岩と呼びます。
砕屑粒子は、1/16mmより細かければ泥、1/16mm~2mmなら砂、2mm以上なら礫に区分される。小麦粉より細かい粒子なら泥、米粒より大きければ礫のように、身近なものと比べるとわかりやすいかもしれないですね。
ある岩石を変成岩だと判定するためには?
変成岩は地下(地殻の深部)に火成岩や堆積岩が引きずり込まれて、新しい鉱物ができたり、組織が変化してできますから、その証拠を探すことになります。そういう意味では、「火成岩と堆積岩をどれだけ鑑定できるか」がカギになるかもしれませんね。
泥岩に似ているのだけれど、鉱物のブツブツが見られる場合は、泥岩をもとにした変成岩(ホルンフェルス)、深成岩のように鉱物でキラキラなんだけど白と黒のしま模様がはっきりしている場合は片麻岩である可能性が高いです。
変成岩の区分
火成岩、堆積岩が地下深くに引きずり込まれて、高圧?高温にさらされてできる変成岩は、広い範囲で大規模に形成されることが多いので、広域変成岩と呼ばれます。
広域変成岩:しま模様(片理や片麻状構造)が見られる結晶片岩や片麻岩が代表格。
変成する前の岩石を原岩という。火山岩や堆積岩が広域変成岩の原岩になることが多い。深成岩はもともと高温?高圧の地下深いところでできるので、堆積岩や火山岩に比べ変成しにくいのでしょう。
接触変成岩:広域変成岩に対して、主に堆積岩が花こう岩などの深成岩体の熱で変化してできる岩石をと呼びます。広域変成岩に比べ、深成岩体の周辺(接触部)にしかできないので局所的な分布になります。広域変成岩に比べ、高圧にさらされることが少ないので、ほとんどしま模様は見られません。