交通手段の多くをマイカーに頼らざるを得ない長野県... 地方の移動課題を "カーシェア"で解決!特別レポート

信州大学発スタートアップ 「TRILL.」が描く、地方交通の新たな形

繊維学部卒業生の藤森研伍さんが代表取締役を務める信州大学発スタートアップ企業の「株式会社TRILL.(トリル)」(長野市)。同社は、地方ならではの移動の課題を、カーシェアサービス「OURCAR(アワカ)」の提供を通じて解決していきたいと考えています。藤森さんが描く地方交通インフラの新たな形とは?(文?中村 光宏)

????? 信州大学広報誌「信大NOW」第147号(2024.9.30発行)より

01_5.jpg

TRILL.が提供するカーシェアサービス「OURCAR(アワカ)」のサービススキーム。車を手軽に借りたい人と、個人で車を貸し出したい人をマッチングする。

地方でも利用しやすいカーシェアを

02_4.jpg

写真は、OURCARのカーステーションの一例(幟はイベント時のもの)。背景を見ても分かる通り、住宅地の中にある普通の駐車場に設置されています。

地方に特化した独自の手法によるカーシェアサービスを実現しようとしている信州大学発スタートアップ企業があります。繊維学部卒業生の藤森研伍さんが代表取締役を務める「株式会社TRILL.」です。同社が提供する「OURCAR」は、2022年に長野市のスタートアップ支援事業に、2023年に長野県の信州アクセラレーションプログラム事業にも採択されるなど高い評価を受けました。2023年1月のサービス開始以来、現在は長野県内の3市(長野市、松本市、上田市)で提供されています。カーシェアサービスは大都市を抱える東京都や大阪府などに集中しているのが実情で、長野県などの地方部ではあまり普及が進んでいないというのが実情のようです。しかも、ほとんどがレンタカー営業所を通じてサービスを提供する形をとっており、主要街道沿いにレンタカーが点在しているので、日常から使うには手軽とは言えないのが実情です。そんな地方に特化し、従来とは異なる手法で手軽なカーシェアサービスを実現しようとしているのが、TRILL.の提供する「OURCAR」です。その最大の特長は、利用者が徒歩5分程度でたどり着けるよう、カーステーションを住宅街の中に設置していること。「スニーカーを履くような気軽さで車に乗れることを目指している」と、同社の藤森社長は話します。OURCARでシェアされる車は基本的に「わ」ナンバーの車(有償貸渡用の車両)や地域の個人の車を未利用時間に貸し出す手法をとっています。そして、その駐車場所をカーステーションとすることで、住宅地や生活圏内で手軽に借りられる環境を実現しています。従来のカーシェアサービスのように利用の有無を問わず発生する初期費用や月額基本料金も無料。藤森社長は「利用料金の点でも手軽に利用できるようにしている」と胸を張ります。現在、長野市、松本市、上田市において、カーシェア可能な車が計20台登録され、運用実績も順調に上がっているそう。2023年8月に信州大学発スタートアップに認定されたことによる信用の向上などもあって車両提供者が増加しており、3市以外への進出も企図しているそうです。

信大時代の経験がサービス開発のきっかけ

OURCAR提供のきっかけのひとつが、信州大学での学生時代の経験です。藤森社長は大阪出身。公共交通が発達しており、車がなくても不便を感じることはありませんでした。ところが信州大学に入学して、車がないと行きたいところに行けないという現実を目の当たりにし愕然としたと言います。「買い物ひとつとっても商業施設に行くことができない。参加したかったイベントに行けないこともありました。車がないというだけで、経験格差を強く感じました。そして、いつしか私同様に楽しみを失っている人が大勢いるに違いないという気持ちが強まっていきました」

もうひとつ、大学2年終了時に休学し、半年間アフリカを旅した経験もOURCARを提供するきっかけになっているそうです。「明日、自分の身に何が起こるか分からないアフリカで生活し、いま経験して感じていることこそが一番大切なのだと気づかされました。車がないだけで経験の数が変わるなら、車を用意することで経験の幅も数も増やせるのではないかと思ったのです」

03.jpg

どの場所でどんな車が選べるのかが一目瞭然なOURCARの予約サイト。地図内をよく見ると、長野市の住宅街の中に点在しているのが分かります。

点から線、そして面へサービスを拡大

04.jpg

2023年度の信州アクセラレーションプログラム採択事業者。中央が藤森社長で、右は株式会社
ネックレス 滝沢直美 代表取締役、左は株式会社Swell 青波美智 代表取締役。

OURCARが目指す最終形は、日本全国にカーステーションが網羅され、大都市でも地方でも誰もがすぐに車を使えるようになること。例えるなら、知らない駅に降り立ち、改札口の目の前にあるOURCARに乗って思い出づくりに旅立てるような世界の実現だそうです。現在は長野県内の3市のみと点のサービスですが、藤森社長は「点を“線”に変え、さらに線の周囲に広げて“面”にして、全国に広げていきたい」と話します。そのために最優先で取り組んでいるのは、OURCARでカーシェアできる車両の拡大。まずは長野県内の松本市、長野市、上田市及び地方都市を中心に、積極的に登録車両の募集を行っています。提供車両が増えれば、ユーザーが柔軟に利用できる保険の仕組みや利用までの距離など、さらなるユーザーメリットも付与できる」と言います。中長期の目標のひとつとして、ライドシェアへの参画も掲げています。カーシェアが車を運転して利用したい人と空いている車をマッチングするサービスであるのに対し、ライドシェアはドライバーと乗車したい人をマッチングするサービスです。今年4月に施行された働き方改革関連法によるタクシードライバーの不足を受け、一部の大都市でライドシェアの運用がスタートしており、藤森社長はOURCARの新たなサービスとしてそれを全国に広げたいと考えています。「OURCAR利用者同士やマイカーに乗っている人と車を持っていない人同士がライドシェアをできるようになります。」と期待を込めて話します。「シェアリングとは分け合うこと。そのためには人と人の助け合いが必要です。OURCARによって利用者が車のある幸せを享受できるだけでなく、相互扶助の精神が根差してくれればと願っています」。そう話す藤森社長が思い描く車を通じた人を幸せにするシェアリングサービスの形。実現が楽しみです。

ページトップに戻る

MENU