信大発夏秋イチゴ「信大BS8-9」の魅力!地域コミュニケーション
夏秋イチゴ「信大BS8-9」の魅力
信州大学農学部が開発し、2011年に品種登録された夏秋イチゴ「信大BS8-9」の栽培が全国へ広がっている。大井美知男学術188bet体育_188bet备用网址院教授(農学系)が、約6年間かけて品種改良を手掛けた話題の新品種だ。
本来、暑さに弱いイチゴは、夏から秋は果実の収穫がしづらい端境期。「夏秋イチゴ」とは、この時期に収穫?出荷が可能なイチゴのことだ。この「信大BS8-9」について、その開発の経緯と今後の展開を聞いた。
????? 信州大学広報誌「信大NOW」第89号(2014.9.30発行)より
高品質?夏秋イチゴの需要の高まり
イチゴは「一季成り性品種」と「四季成り性品種」に大別される。生食用として出回る品種の多くが、「一季成り」と呼ばれるもので、収穫?出荷の期間は冬から春に限られている。高級イチゴとして名高い「あまおう」「章姫(あきひめ)」などが、一季成りの品種だ。
それに対し、「四季成り」とは、一季成りとは違い、夏から秋にかけての期間でも収穫?出荷が可能な品種。「信大BS8-9」は、この「四季成り性品種」に当たる。
数年前まで、業務用夏秋イチゴはほぼ100%を輸入に依存していた。その大部分が、甘味や酸味をほとんど感じない、飾りとして使われる形ばかりのもの。そのため、高品質な国産夏秋イチゴのニーズは、高級路線の製菓店など、業務用の目的を中心に根強く存在していた。
そうした背景もあり、「四季成り性品種」のイチゴは各地で品種改良と栽培普及が少しずつ進んでいて、現在、市場で国産夏秋イチゴが占める割合は約半分にまで増加しているようだ。
そうした中、「信大BS8-9」は、2011年に品種登録されて以来、報道?メディアの後押しと共に生産者間の口コミによって、じわじわとその存在感を増してきている。定植株数(※栽培許諾された契約者に配布した苗の数)も、栽培許諾を始めた平成22年度に12,000株だったものが、平成25年度には46,500株と約4倍に。その栽培地域は長野県をはじめ、北海道、東北、関東、そしてイチゴの栽培が難しいとされていた温暖な九州へも広がっている。
高付加価値の農業への挑戦
「信大BS8-9」の魅力とは何なのか。
最も大きな魅力は、やはり大井教授がこだわり続けた「味」。夏期の高温下でも高い糖度を保ち、食味に大きく影響するという香りも強い。その品質の高さは、高級路線のフルーツパーラーや製菓店などから高く評価されており、引き合いが多いというのもうなずける。
また、外観が美しく、切った時に中まで赤いのも特性のひとつだ。さらに、農家が最も危惧する病気にも強く、果実が比較的硬いため輸送にも耐えられる上、白ろう果(表面が赤くならない)、芯どまり(新芽が出てこない)といった病害が発生しにくいという特徴もある。需要の高い大きさの果実を収穫できる期間が長いため、利幅の増加、販売方法の多様化も期待できる。
夏秋期、イチゴの価格はただでさえ高騰する。その上、上記のような優れた特性を持つ「信大BS8-9」は、農業の付加価値化を狙う農家にとってうってつけの品種だといえる。実際、栽培農家には、自ら販路を開拓することに積極的な人が多いという。高級路線で製菓店に直接卸したり、自らの名前を冠してブランド化を図ったりする農家もいる。夏から秋に栽培できる利点を生かし、他の品種と組み合わせながら栽培計画を立て、リスクヘッジを図ることも可能だ。
理想の味と形を求めて6,000通りもの品種を組み合わせる
大井教授が夏秋イチゴの育種(品種改良)に着手したのは2003年。もともと長野県は果樹や野菜など園芸作物の産地だ。だが、高原野菜は収穫期が限定され、また価格変動も大きいことから、より安定的な作物の開発が求められていた。この面での地域貢献を目指すため、大井教授は夏秋イチゴに着目。また、開発着手時は大半が輸入品であり、これを国産に置き換えることができれば、国内農業の振興?高付加価値化に繋がると考えた。
そこで、大井教授が特にこだわったのは品質だった。「四季を通じて〝旬?の味がするイチゴを作る」ことを目指した。味の濃さ、香り、酸味とのバランス、姿かたち…、大井教授が新品種に求める形質は多岐にわたった。
しかし、いくら優良な品種同士を組み合わせても、その個体の性質がそのまま新たな個体に受け継がれるとは限らないのが、育種の難しいところだ。膨大な品種特性の知識と共に、品種を組み合わせる際のセンスも求められる。
「イチゴは他の作物と比べて形質にばらつきが少ないので、交配技術的にはそれ程難しくない」と大井教授は笑う。しかしそれでも「約6,000通りの組み合わせを行い、ようやく目標にかなったのが『信大BS8-9』だった」と振り返る。
栽培拡大へ。
技術移転チームとの連携で広がる生産者とのつながり
新品種は完成し、その品種登録は実現したが、次に待っていた課題は栽培の普及だった。
「現場とのつながりをいかに作るかが課題でした」。そう語るのは、大学の知的財産の技術移転を受け持つ「(株)信州TLO 技術移転グループ」(上田キャンパス内)の篠塚由紀さん。「信大BS8-9」の普及を進めたひとりだ。
「大学の品種、特に夏秋イチゴを栽培現場へ普及させる」という観点においては、参考になる事例が無かった。
そのため、篠塚さんは、まず品種利用許諾の知識をつけると同時に、大井教授と共に県内関係者の視察や打合せに積極的に同行。生産者や長野県との連携体制を築いていった。また、農業関連の展示会などにも出展し、市場のニーズを拾い上げ、その情報を生産者へもフィードバックするなど、現場との情報交換と連携を基礎にしながら普及の形を作っていったという。
現在、苗の販売や栽培許諾申請手続きは信州TLOが受け持ち、栽培マニュアルも同社ホームページ内で公開している。配布用苗の生産は連携する生産者に依頼し、栽培許諾申請に応じて安定的に供給する体制を調えた。
「連携体制をとることで、現場のデータが大学側にも還ってきます。そのことも大学にとって有益なことでした」と篠塚さんは振り返る。
総合大学ならではの発想と連携
種苗の育種は民間が出資しにくい分野でもある。成功するかどうか誰にも予想がつかないためだ。しかし、だからこそ、大学が188bet体育_188bet备用网址対象としたことに意義があるといえる。
また、大学が品種の独自権利を持っているため、果実の販売に関して商業ベースでの制約が少ないことも、生産者にとって利点のひとつといえるだろう。
学内でも新たな取り組みが進行している。地下水熱を利用した高効率な周年栽培を目指した工学部との連携プロジェクトだ。「農学部だけでは出来ないことを工学部との連携で実現できる」と大井教授は期待する。
様々な広がりを見せ始めた「信大BS8-9」。これからの大学と農業との新たな関係性と可能性を築く存在でもあるのだ。
「農?工連携」地下水熱利用で高効率な通年栽培実現へ。
「あらゆる技術を駆使するつもりでいます」。『施設園芸栽培作物の低コスト?高品質?周年安定供給技術の確立』と題した農工連携プロジェクトの全体総括を務める、工学部?藤縄克之特任教授はそう力を込める。農林水産省が公募した「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業」にも採択されたプロジェクトだ。
藤縄特任教授は、年間を通してほぼ一定の温度を保つ「地下水」を利用した高効率な冷暖房システムを長年188bet体育_188bet备用网址対象としてきた。農学部との連携は、2014年1月に行われた上記事業の技術提案会がきっかけだったという。「信大BS8-9」は栽培技術こそ確立していたが、夏場の高温下において一部に受精不良、花房未発達などが起こるという課題も抱えていた。
藤縄特任教授は主にその点に着目し、地下水熱エネルギーと水温調節を併用したシステム開発を検討している。例えば、空調、培地の冷却、イチゴの成長点の局所冷却、灌水などを、地下水熱を利用したシステムで連携制御していく。これにより、最適温度環境を作り出し、重油などの使用を抑えることで冷暖房エネルギーを約60%削減できると見込んでいる。
これまで地下水熱を利用した農業関連技術はほとんど浸透しておらず、特に、地下水を直接汲み上げその熱エネルギーを利用する、オープン型といわれる地下水源ヒートポンプを使用したシステム開発は、本事業以外には例を見ないという。
また、農学部のほかに繊維学部や民間企業との連携も強め、産学官それぞれの専門家、約20名のプロジェクトチームを結成した。栽培の実証実験には、自社農場と農産物直売所を有する(株)三郷サラダ市(安曇野市)が協力する。
「施設園芸作物の栽培における、画期的な動きになると期待しています」と藤縄特任教授。信州大学がもつ農?工分野の188bet体育_188bet备用网址シーズを総動員させた事業が進んでいる。