信州の伝統野菜の誇りと想いをつなぐ。地域コミュニケーション
信州大学×長野県ケーブルテレビ協議会 全国の伝統野菜を知る強力ゲストを迎え、第3回シンポジウム開催
2023年3月9日、信州大学と長野県ケーブルテレビ協議会は、連携協定に基づく事業「信州の伝統野菜アーカイブスプロジェクト~信州の伝統野菜の誇りと思いをつなぐ~」のリモートシンポジウム2023を開催しました。同シンポジウムは2021年から実施しているもので、今回は第3回目。同プロジェクトリーダーの信州大学学術188bet体育_188bet备用网址院(農学系)の松島憲一教授に加え、全国の伝統野菜に精通される山形大学 農学部 食料生命環境学科の江頭宏昌教授を強力ゲストに迎え、全国を俯瞰した意見?情報交換の中で、信州伝統野菜の作り方や特徴、生産者の声などを映像で残すことの意義が改めて浮き彫りになりました。
( 文?佐々木 政史)
????? 信州大学広報誌「信大NOW」第141号(2023.9.29発行)より
映像新作8本を公開 伝統野菜188bet体育_188bet备用网址の“第一人者”が解説
その土地の気候風土や文化と密接に関わり、味や形、香りなどにおいて、唯一無二の魅力と価値を持った“食の文化財”とも言える野菜― それが「伝統野菜」です。この継承に積極的に取り組んでいるのが長野県。2006年度に認定制度を設け、来歴?食文化?品種特性の3項目で一定の基準を満たしたものを「信州の伝統野菜」として選定、2023年3月9日現在で、83種類を登録しています。
伝統野菜の継承が今、危機に瀕しています。一般的な品種の野菜に比べて耐病性で劣り、収量?品質が不安定である品種が多いことから、生産者の高齢化に伴い、年を追うごとに生産量が落ちてきているのです。
こうした実情に危機感を持ち、立ち上がったのが、信州大学と長野県ケーブルテレビ協議会です。両者は2021年から「信州の伝統野菜アーカイブスプロジェクト~信州の伝統野菜の誇りと思いをつなぐ~」と題し、信州の伝統野菜の作り方や特徴、地域文化としての重要性などを映像に残す取り組みを行っています。信州大学の学術的知見と、地域に根付いたCATVのフットワークを活かしたプロジェクトです。これまで16本の映像コンテンツを制作しましたが、2022年度は新たに8本の新作を追加。3月9日に伊那ケーブルテレビジョンのスタジオをメイン会場に開催したリモートシンポジウムで、その内容を紹介しました。
今回は、初回から解説者を務め、信州伝統野菜認定委員会座長である信州大学学術188bet体育_188bet备用网址院(農学系)の松島憲一教授に加え、伝統野菜188bet体育_188bet备用网址の第一人者であり全国の実情に詳しい山形大学 農学部 食料生命環境学科の江頭宏昌教授をゲストに迎え、これまで以上に深堀りした議論を行いました。
県内CATVスタジオを中継でつなぎ生産者へインタビュー
8本の新作は「八町きゅうり」(Goo light)、「佐久古太きゅうり」(佐久ケーブルテレビ)、「ひしの南蛮」(コミュニティテレビこもろ)、「大鹿とうがらし」(飯田ケーブルテレビ)、「常盤ごぼう」(iネット飯山)、「親田辛味だいこん」(飯田ケーブルテレビ)、「稲核菜(いねこきな)」(あづみ野テレビ)、「松本一本ねぎ」(テレビ松本ケーブルビジョン)。このうち、「常盤ごぼう」と「親田辛味だいこん」は、それぞれ動画を制作したテレビ局のスタジオと中継を結び、生産者へのインタビューを行いました。
iネット飯山のスタジオでは、「常盤ごぼう」を40年以上作り続けている常盤ごぼう部会副部会長の藤澤正美さんがインタビューに対応。江頭教授は藤澤さんの畑の土の粒度が深くまで均一な理由について質問。「地域を流れる千曲川が氾濫するたびに新しい土が堆積してきたことが大きいのでは」という藤澤さんの回答に対し、江頭教授は「独自の地域環境が常盤ごぼうを生み出しているんですね」と感想を述べました。
次に、飯田ケーブルテレビのスタジオに中継を繋ぎ、NPO法人元気だ下條の事務局長である細田英治さんが、下條村の「親田辛味だいこん」についての質問に回答。「だいこんの辛みは天候や土壌環境で変わるため、安定した辛みを出すことは難しいのでは?」という松島教授の質問を受け、「定植?収穫のタイミングの指導や、土壌分析などで、辛みの安定化に取り組んでいる」と答えました。
関心は学校現場へもジワリ波及…高校生が伝統野菜で加工品を考案!
プロジェクトは3年目を迎え、様々な場面で多くの反響を呼んでいます。その一つが学校現場。授業を通じて高校生が地域の伝統野菜に関心を持ち始めており、今回のシンポジウムでは長野商業高校の生徒さんによる信州伝統野菜「ぼたんこしょう」の商品化に関するプレゼンテーション動画の紹介がありました。
タイトルは「守りたい地域とぼたんこしょう」。“ぼたんこしょう”という独特のトウガラシを使ったおやきを商品化することで、地域の農家と加工業者が潤う仕組みをつくるというもの。松島教授は「学校を飛び出して地域づくりの現場を経験するのは素晴らしい」と評価したうえで、飯山高校や更科農業高校などにおいて、信州大学の学生が教育の一貫として信州伝統野菜に関わっている事例も紹介しました。
今回、全国的な知見も加わりプロジェクトの意義を再認識
「伝統野菜は地域文化を次代へ伝える“メディア”である」。これは江頭教授がシンポジウムの最後で語った言葉。古来人々は伝統野菜を通じて、農産物の種取りや長期保存の技術、美味しい食べ方などを、現代まで脈々と伝えてきました。…現在、高齢化による後継者不足で伝統野菜の継承が困難になり、この食文化の継承は危機的状況。その状況下で、伝統野菜は地域文化を次代へと伝えるメディアとしての機能があり、地域文化を守っていくうえで非常に重要なファクターになっている、という意味になります。
さらに江頭教授がコミットしたのは、3年続くこの「信州の伝統野菜アーカイブスプロジェクト」の意義。同プロジェクトは、信州伝統野菜の由来や特徴、生産者の声などを映像で残すことで、伝統野菜の継承のみならず地域文化の継承に貢献しており、江頭教授も「全国でもこうした取り組みは例が少ないのではないか」と語り、プロジェクトの重要性も再認識できました。
今回は、全国の伝統野菜に詳しい江頭教授の参加で、信州の枠を超えた全国的な知見を得ることができました。伝統野菜は、その地域に根付いたものである一方で、課題や取り組みが他の地域と共通している部分も結構あり、信州ならではの伝統野菜の特徴も発見できました。「信州の伝統野菜アーカイブスプロジェクト」の今後に期待します。
制作8タイトル(累計24タイトルに)