信州大学農学部発!伝統の林業サークル 伊那守の森林愛。地域コミュニケーション
信州大学農学部に「伊那守」という、10年続く林業サークルがあります。主な活動内容は、活動拠点である長野県下伊那郡松川町部奈地区と飯島町本郷地区での森林整備のお手伝い。森林?環境共生学コースの学生を中心に、農学部生約30名が所属しています。学生のサークルといえど、チェーンソーに鉈や鋸、草払い機も駆使し、男女関係なく作業を行っています。
サークルの活動が始まって10年余り、地域との継続した関係性の中で実現してきた「森林愛」あふれる活動の一端について、代表の長澤くるみさん(農学生命科学科 森林?環境共生学コース3年)と副代表の田島笹さん(同コース3年)にお聞きしました。(文:柳澤 愛由)
????? 信州大学広報誌「信大NOW」第120号(2019.11.29発行)より
伊那守代表の長澤くるみさん(写真中央)(農学部森林?環境共生学コース3年生)と副代表の田島笹さん(写真右)(農学部森林?環境共生学コース3年生)共に群馬県ご出身、信州の自然に魅了されたお仲間のようです。
今回取材したライターの柳澤愛由さん(写真左)も農学部森林科学科の卒業生。在学時は伊那守サークルではなかったが、樹や植物の種類の話になると、さすがにご専門の会話が成立。
「森林愛」あふれる伊那守(いなもり)の活動
「伊那守で活動するようになってから、カラマツが好きになりました。秋の紅葉の時期もきれいですけど、私は“春のカラマツ”も好きです」。そう笑顔で話してくれたのは、伊那守代表の長澤くるみさん。カラマツは木材としても有用な落葉針葉樹。長野県を代表する樹種のひとつです。
伊那守の活動目的は、手入れの行き届かなくなった森林の整備を通して地域に貢献すること、そして大学の講義や実習で学んだことを実践に移すことで、さらなる知識と技術の習得を目指すことにあります。現在は、松川町部奈地区と飯島町本郷地区にある山林で、下草刈りや除伐、間伐などをメインに、それぞれ月に1回ずつ作業を行っています。そのほか南信の造園会社の方の協力で農学部主催のAFC(農学部附属アルプス圏フィールド科学教育188bet体育_188bet备用网址センター)祭などで子ども向けのツリークライミングを実施し、森林の楽しさや魅力を伝える活動も行っています。
森林や林業について学んでいる学生が多いとはいえ、現場での実践はほとんどありません。そのため、活動拠点とする地域で林業関係に従事された経験のある方々がサポーターとして活動を支えてくれています。作業を行う上での注意点、チェーンソーや鉈?鋸の使い方、伐採の方法など、指導者として学生たちに同行しながら、全員が安全に作業できるよう、さまざまな技術をレクチャーしてくれています。なかでも松川町部奈地区は、活動が始まった当初から続くお付き合いです。飯島町本郷地区での活動は、2015年にスタート。活動場所は、「遊ん場(あそんば)どきドキの森」と名付けられた平地林で、地域の憩いの場になればと本郷地区の有志の方々が整備を続けてきた場所です。
こうした地域の方々との交流も、伊那守の活動の魅力のひとつ。季節になれば山菜採りなどを行うこともあります。林業や森林整備に関する技術を学ぶだけでなく、森の楽しさや面白さ、また怖さも同時に学んできました。
「チェーンソーの使い方ひとつ取ってみても技術が必要です。部奈は急な斜面も多いですし、木を1本倒すだけの作業でも、森の中には一切答えがありません。その中で作業をしなければならないので、難しいです」と副代表の田島笹さん。「技術も体力も必要だし、地形、土地、樹種によって作業をする上で気を付けないといけないことが違っていて、考えなきゃいけないことがたくさんあります。今もまだチェーンソーを持つと緊張します」(長澤さん)。それでも「森の中での作業は気持ちがいい」と口をそろえる二人。
「まじめな子が多いですよ。歴代の学生もまじめな子たちが多かったですね。森の中でお昼ご飯を食べたり、雪合戦したり、そんなことも楽しいんだと思いますが、やっぱり木に実際に触れることで感じられるものがあるから10年続いてきたのだと思います」。松川町部奈地区で、伊那守サポーターを長年務めてくれている林貞喜さんは、これまでの活動を振り返りながらそう話します。
「いい森」を知っているから森の違いが分かる
長野県にある森林の多くは、人の手が入った人工林です。生業の場として、生活の場として、かつては地域になくてはならない存在でしたが、林業従事者の減少や生活環境の変化から、放置され、管理の行き届かなくなった森林が各地で増加しています。活動拠点のひとつである部奈地区の山林も、かつてはそうした場所のひとつだったそうです。現在は、伊那守の活動の成果もあり、管理の行き届いた森林に生まれ変わっています。
「いい森を見て作業をしているからこそ、手入れが必要な森との違いを学ぶことができました」(長澤さん)
活動の中で間伐した木の集材や、製材を体験したこともありました。森林に関わるさまざまな作業を体験しながらも「私たちはまだまだ知識や技術が足りず、地域の方々にご指導いただいているおかげで活動ができています」と謙虚に話す長澤さん。それでも、作業する彼女たちの姿からは、現場で学び取ってきた確かな技術と知識も垣間見えます。伊那守の「森林愛」は、先人たちが森を守り伝えてきたのと同じように、これからも農学部伊那守サークルのDNAとして受け継がれていくことでしょう。
Supporter interview
伊那守サポーター 林 貞喜さん(松川町部奈地区里山協議会)
やっぱり山がきれいになるとうれしいものです。
やっぱり山がきれいになると学生たちもうれしいのだと思います。部奈の森も活動を始めた頃は大変な状況でした。その頃を知っている人が、今の森を見て「すごいね」と感心していた程です。
山は実際に入ってみなければ分からないことがたくさんあります。どういった所に蜂がいるのか、蛇がいるのか、どこにかぶれやすい木があるのか…、そういう感覚は山に入った経験がなければ得ることができません。木の伐採も同じで、受け口、追い口の作り方、伐倒方向のコントロール、鉈や鋸の使い方など、正確な技術と実際の肌感覚を知らなければ、安全な作業はできません。伊那守は、実際の自然や空気に触れ、五感で体感することができるサークルです。だから10年続いたんじゃないですかね。
10年も続いてくれていて、本当にありがたいです。山も随分よくなりました。地域の仲間たちも皆年取ってきているから、若い子が来てくれるとうれしいものですよ。