我がふるさとの御柱地域コミュニケーション
諏訪だけじゃない 長野県各地に伝わる“御柱”を映像とともに検証するフォーラム
今年開催となる諏訪の御柱祭に合わせ、県内各地で行われる御柱祭りや御柱にまつわる祭りに焦点を当てたフォーラム「我がふるさとの御柱」が2月14日、上田市の生島足島神社で開催された。これは、地域振興を目的とした信州大学と日本ケーブルテレビ連盟信越支部長野県協議会との連携協定に基づく取り組みで、今回で4回目の開催となる。
「御柱」と聞くと、多くの人が思い浮かべるのは諏訪湖を囲んで上社と下社、4つの境内を持つ諏訪大社の御柱祭だが、諏訪地域以外でも、長野県内各地で様々な御柱祭りが行われている。また、それ以外でも、「柱」にまつわる多くの祭りが今に伝わる。フォーラムでは、県内のケーブルテレビ各局がこれまで撮りためた各地の祭りの映像を持ちより、それを検証しながら、その多様性や魅力、祭りの意義について、パネリストらが解説し、幅広い議論を展開した。
なおこのフォーラムはそのまま番組化され、後日ケーブルテレビ各局で放送された。
(文?鹿野 なつ樹)
????? 信州大学広報誌「信大NOW」」第98号(2016.3.29発行)より
祭りの意義や文化の多様性を考える機会に
フォーラムの会場は上田市の生島足島神社斎館。諏訪大神の祀られる同神社でも、数えで7年に一度御柱祭りが開催されている。開会に先立ち、同神社の氏子総代長の依田延嘉氏は、「昔と比べ、祭りに参加する人々の様子や、その担い手も変わってきている」と述べたうえで、「神社としても7年に一度行われる御柱をどう守っていけばいいかと頭を悩ませている。今日の機会にその意義や歴史について学び考えたい」と意気込みを語った。
フォーラムは、各地の祭りの映像を上映しながら、それについてパネリストらが解説し、ディスカッションする、という形で進行。信州大学地域戦略センター長の笹本正治学術188bet体育_188bet备用网址院教授(人文科学系)をコーディネーターに、長野市立博物館の小森明里氏を特別招聘パネリストとして迎え、またケーブルテレビ局から5名のスタッフもパネリストとして登壇した。
「もともと諏訪大社は信濃の国の一宮(※)として、信州の氏神様のような役割を持っていた神社。そのためかつては信州の人たち全体が御柱祭りに参加していたが、江戸時代に入り、藩の成立によって信濃国全体の奉仕がなくなり、各地の祭りが極めて独自性を持つものになった」と笹本教授。「今日は御柱にまつわる様々な祭りの映像を見ながら、信州という地域の文化の多様性や、祭りが持つ可能性を皆で考えたい」と、その趣旨を説明し、フォーラムをスタートさせた。
(※)一宮(いちのみや)???神社の社格を示す格式の一つで、各地域の中で最も格式が高いとされる神社を一宮と呼ぶ。一宮に継ぐ社格として二宮(にのみや)、三宮(さんのみや)と続く。
各地に伝わる多彩な御柱
フォーラムでは、小野神社や会場となった生島足島神社の御柱祭りなど、全部で県内11ヵ所の祭りの様子が上映された。一般的な御柱祭りと聞いて連想されるような、太い柱を切って曳いてくる祭り以外にも、細い柱に装飾をほどこして建てるというものや、2本の柱を建てて競って火をつけるものなど、地域ごとに驚くほど多彩な祭りが行われていることが、映像を通して明らかとなった。
例えば、安曇野市三郷一日市場東村の道祖神祭りは、道祖神の横に建てる御柱に施される、「お道具」と呼ばれる装飾が特徴的だ。柱の中ほどに男根をかたどったお道具をつけ、柱の峰には三日月様と呼ばれる太陽と月をかたどった女神が祀られる。男性を象徴する飾りと女性を象徴する飾りをまとった御柱を立てて、子孫繁栄と五穀豊穣を願う祭りだ。
この他にも、「松子」の名で親しまれ、国の重要無形文化財として登録されている飯山市小菅地区の柱松柴灯神事。これは、子供二人が祭りの前日に川で身を清め、奥社で一晩を神様と共に過ごして神の子となった後、上の柱松と下の柱松にそれぞれ競って火をつけるというもの。上の柱松が勝てば、その年は天下泰平。下の柱松が勝てばその年は五穀豊穣になると言われている。かつては毎年行われていたというこの祭り、今では人手不足を理由に、3年に1度しか行われなくなっているという。各地で行われている祭りの様子を見たパネリストらは、「自分の地域の祭りしか詳しく知らなかったが、こうも違いがあるとは」と口々に感想を漏らした。それを受け、笹本教授は「これまで知らなかった、地域ごとの祭りの違いや特徴が見えてきた点は、今回のフォーラムの大きな成果だ」と強調した。
また長野市立博物館の小森さんは、「祭りの見物人の存在も、祭礼を理解するうえでカギとなる」と指摘。「かつては神様を喜ばせるために行われていた祭りが、時を経るにつれ、見物人の目を引くことの方が重要視され、衣装がきらびやかになったり、余興がメインに行われたりと、イベント化してきた」と、祭りを見守る周囲の人々の存在によって、その様子が変化してきたという点についても言及した。
担い手減少により課題となる祭りの継承
こうした各地の映像を検証する中で、その変化や多様性がつまびらかにされると共に、担い手の減少によって、祭りそのものの存続が課題となっている地域が多いことも浮き彫りとなった。
あづみ野テレビの織部夏子さんは、「かつては400以上あったとされる道祖神祭りも、今は17しか行われていない。今後若い世代にどう祭りを引き継いでいけるかが課題。未来に継承していくためには、地域の人や、私たち報道機関が祭りをより魅力あるものに変え、見せていくことが重要」と力をこめた。
飯田ケーブルテレビの平澤徹さんも「多くの祭りで共通しているのは子孫繁栄を願うものであるという点」と述べたうえで「子どもというのは目に見える形での未来。今という時代だからこそ力を入れて祭りを継承していくべきではないか」と意見を投げかけた。
祭りが作り出す地域の未来
子孫繁栄、五穀豊穣、天下泰平―祭りには、人々が豊かに暮らすための様々な願いがこめられている。各地の祭りは、世代を超え、多くの人々の祈りを載せ、今に至るまで継承されてきた。
こうした地域の祭りについて生き生きと解説するパネリストらの様子に、「皆さんが自分の地域の祭りにどれだけ誇りをもっているかが伝わってくる」と笹本教授。「祭りは、人々の『祈り』であると同時に地域の『自信』だ」と力強く語った。
また笹本教授は、祭りは防災の観点から見ても重要な役割を持つ点を指摘。祭りが行われる毎に横のつながりを持ってきた地域では、災害が起こった場合に、人と人とがつながる力を持っているからだ。独自文化継承の観点からも、地域の連携という観点からも、祭りというものが地域に果たす役割は大きい。