未知に取り組み、新たな価値を創造する!「アントレプレナーシップ」を養う"超実践型"ゼミ、その魅力とは!?産学官金融連携
超少子高齢化により人口減少が加速度的に進むなか、地域?社会はこれまでになく様々な問題を抱えています。しかし、その多くは明確な解が出されていないと言っていいでしょう。
こうした中で、全学横断特別教育プログラム「ローカル?イノベーター養成コース」スタートアップ授業(導入授業)のひとつである「アントレプレナー実践ゼミ」では、地域?社会が抱える問題を把握、分析し、新たな価値を創造して解決策を提案する「アントレプレナーシップ」を養成。座学とは異なる、学生の主体性を重視する“超実践型”の授業手法が注目を集めています。2022年度からは、アルピコグループとのタッグ(共同188bet体育_188bet备用网址)で、実際に新規事業創出を行い、ますます注目を集めるアントレプレナー実践ゼミ。その独自性や魅力などについて、担当教員や学生に話しをお聞きしました。(文?佐々木 政史)
????? 信州大学広報誌「信大NOW」第150号(2025.3.31発行)より
注目されるPBLを導入 教育ではなく、学習
新たな教育手法として、「プロジェクト/プロブレム?ベースド?ラーニング(PBL)」に注目が集まっています。これは、学生が実践的なプロジェクトを通じて知識やスキルを習得する教育手法です。講義や実験、演習といった一般的な教育手法は、ある程度決まった解が設けられています。対して、PBLは現実社会などの予め決まった解がない問題を扱うため、学生が自ら実践的な学習のなかで答えを求めていくことになります。
信州大学ではこうしたPBLの教育手法を積極的に取り入れており、それに特化しているのが、全学横断特別教育プログラム推進本部長の林靖人教授が担当する「アントレプレナー実践ゼミ」です。これは多様な学部?学年の学生が受講できる「全学横断教育プログラム」のコースのひとつで、新たな価値を創造してビジネスや事業を立ち上げる起業家精神「アントレプレナーシップ」を養うための実践的な教育プログラムです。学生はチームに分かれて協力しながら、社会課題の解決を目指すかたちで、サービスや商品の企画を考えます。
担当教員の林教授は、この授業について、「教育ではなく、学習」と話します。教育は教員が学生に教えることですが、学習は学生が自ら主体的に学ぶこと。この“学ぶ力”を養うのが、ゼミの狙いだといいます。
地域?社会の課題解決に向けて革新的なことに取り組む外部人材を企業や行政から講師として招いていることも、このゼミの特徴です。外部講師の一人が、オンライン動画学習サービスを手掛ける株式会社ドコモgaccoで生涯教育事業に携わる山田崇さん。元塩尻市職員で、在職中は様々なプロジェクトを通じ地域課題の解決を官民連携により推進し、“スーパー公務員”として注目を集めた方です。「少子高齢化が深刻な中山間地の多い長野県は、特に課題先進地。それだけに、そもそも解決すべき課題を見つけるところから取り組むことの重要性を学生には伝えています」と熱意のこもった表情で話します。
また、ゼミは、2022年に締結した信州大学と地域企業のアルピコグループとの包括的連携協定に基づく「PBL型共同188bet体育_188bet备用网址」であり、将来人材である学生を育成しながら、彼らが主体となって地域?社会課題の解決を実現します。そのために同グループは、企業の視点から学生の事業企画案づくりにアドバイスを行い、優れた企画は実際のサービスや商品として事業化することもユニークな点です。
「学生ならではの発想は私たちにとっても大きな刺激になりますし、何より信州の地域課題の解決を目指す人材の育成に貢献できれば」とアルピコホールディングス 経営企画部 副部長の松木嘉広さんは、連携の意義を話します。
アルピコグループと共同開発 「オーダーメイド?セイジンシキ」とは?
今回、このゼミで企画されたサービスが、アルピコグループで宿泊事業を行うホテルブエナビスタの手により初めて商品化され、2024年12月から販売を開始しました。
これは伊藤詩奈さん(人文学部4年生?取材時)、木口屋和人さん(人文学部3年生?取材時)、草間岳さん(経法学部4年?取材時)らが企画した「オーダーメイド?セイジンシキ」というものです。成人式は市区町村単位で開催され、同級生が集まり、首長や新成人代表が挨拶をするといったある程度決まった形式があります。一方、このサービスは、20歳を迎えた人と家族がプライベートに20歳を祝うもので、宿泊、食事、体験プランの内容をそれぞれの要望に合わせて、オーダーメイドでつくることができます。
例えば、大信州酒造(松本市)の特別室で日本酒の文化や醸造方法を聞きながら試飲する“聞き酒”、ホテルでの記念撮影、フランス料理の特別な食事、家族揃っての宿泊といったプランが用意されています。2022年に成人年齢が18歳へ引き下げられましたが、企画考案のきっかけはこの出来事に感じた“引っ掛かり”だったと、企画者のひとりである伊藤さんは話します。
「従来は20歳から大人がスタートするという意識が一般的にあったと思います。しかし、成人年齢が18歳に引き下げられたとはいえ、酒やたばこが許可されるのは依然として20歳からです。そのあたりがちょっと不明確になって当事者としてモヤモヤしたんです。それで、もう一度、20歳という年齢を大人としての自由と責任が生じる年齢だと再定義したいという想いがありました」
オーダーメイド?セイジンシキは、成人年齢の引き下げという社会変化の中で生じた当事者の違和感をもとに、新しい価値を創造し提案したものと言えるでしょう。
こうした価値創造力に対して、アルピコグループ 経営企画部 部長の上嶋圭介さんは「私たちにはないもの」とPBL型共同188bet体育_188bet备用网址に大きなメリットを感じています。企画者の学生である伊藤さん、木口屋さん、草間さんは、このオーダーメイド?セイジンシキを地域へ貢献できるサービスにしていきたいと考えています。例えば、体験プログラムに酒蔵訪問を組み入れたこともそのひとつ。昨今、若者の酒離れが進んでいますが、特に日本酒は顕著で、県内の酒蔵とっては深刻な問題になっているそうです。こうした課題に対し、オーダーメイド?セイジンシキを通じて新成人に日本酒に触れる機会を提供していきたいと考えています。ちなみに、伊藤さんらは、日本酒を口にしたことがありませんでしたが、今回の企画を通じて親しむようになり、「酒蔵や地域によって、全く味わいが異なることに驚いた」と新たな気付きがあったようです。
実践的な視点、課題の自分ごと化… 学生は成長に手ごたえ
アントレプレナー実践ゼミの受講、そして今回のオーダーメイド?セイジンシキのプロジェクトを通じて、学生は自らの成長の手ごたえを強く掴んでいるようです。
草間さんは「学生は頭のなかの抽象的な考えに留まる場合が多いですが、実社会での具体的な場面で実践的に考える経験をさせていただきました。これはやはり、企業と組んだPBL型共同188bet体育_188bet备用网址のメリットですね」。こう話し、自分とは異なる立場の視点から考えることの重要性を実感しています。
伊藤さんは「実社会の実践に即したサービスを考えることは、社会課題を自分ごととして捉えるうえで、とても貴重な経験になりました」と充実した表情。
木口屋さんはゼミでの経験が進路に大きな影響を与えたといいます。「PBLを重ねるなかで、地域課題の解決に携わる仕事がしたいと考えるようになりました。それで県最南端の根羽村にインターンに行ったんですが、今度はそこで自分の中の課題が見えてきたので、もっと見分を広めていきたいです」と意欲は充分です。
地域?社会の問題解決、そして新たな価値の創造に向け、学生が自ら主体的に事業の構築を目指す“超実践型”の「アントレプレナー実践ゼミ」?。解なき時代に求められる次世代の人材が、このゼミから次々と生まれています。