企画?運営の実践を通して学ぶ地域課題解決のリアル。産学官金融連携
全学横断特別教育プログラム「ローカル?イノベーター養成コース」で信州大学が挑戦する新しい学びのカタチ、その2年目。
信州大学独自となる全学横断特別教育プログラムのひとつ、「ローカル?イノベーター養成コース(通称:LID)」が開講され早2年。
2年次後期の授業の課題は「リアル?プロジェクトマネジメント」。地域課題解決のため、イベント企画?運営の実践を通じて、事業の全体把握やタスク管理、チームによる連携を学ぶカリキュラムとなっており、学生たちだけでテーマの設定、講師の選定?交渉、ワークショップの運営まで、これまで積んだトレーニングをいよいよ実践する段階となりました。
この日は松本市内にある信毎メディアガーデンを会場に、一般参加者も交え、学生とイノベーターをつなぐローカル?イノベーションフォーラム「INNOVATOR HOUSE」を開催しました。
(文?柳澤 愛由)
????? 信州大学広報誌「信大NOW」第116号(2019.3.29発行)より
筋金入りのイノベーター、講師2名を迎えての基調講演
第1部は「イノベーター?プレゼンテーション」。2018年、Jリーグ1部リーグに昇格した松本山雅FCの運営会社である(株)松本山雅の代表取締役神田文之氏と、山間の岡山県西粟倉村で村内産の木材を使った家具製造を行っている(株)ようびの代表取締役大島正幸氏を講師に招いた基調講演を実施しました。神田氏は、自身の経験と松本山雅FCが思い描く未来について紹介しながら、「好きなことをやり続けることがイノベーターに必要なパワー」だと、参加者にエールを送りました。大島氏は、「イノベーションを起こす偉大な失敗」と題し、事業を通じた成功と失敗を独自の視点で解説。自身の体験を例に出しながら、「失敗をマイナスに捉えるのではなく成長への一歩だと捉えることが大切」だと、そのポリシーを参加者に伝えました。
講演の内容を踏まえつつ、第1部後半で行われたのは「イノベーション?ワークショップ」。参加者は「自分が好きになったもの」を紹介しながら、なぜファンになったのかをふり返り、それをふまえて、「ファンを創るにはどうしたらいいのか」をテーマに各々意見を出し合いました。
第2部は、「フューチャー?ローカル?イノベーター?プレゼン(FLIP)」と題し、3名の学生たちによるプレゼン大会が行われました。それぞれの学生が、現在取り組んでいる、またはこれから取り組みたい「地域」をテーマにしたプロジェクトを紹介。「県内企業と学生をつなぐトークイベントを開催したい」、「物件をリノベーションし、人と人がつながる場所を作りたい」など、学生たちの熱のこもったプレゼンテーションが行われました。
この授業を通して行われた地域に根ざしたイノベーターとの交流は、地域課題を学ぶLID生たちにとって大きな財産。3年次には、いよいよ実際に地域企業に飛び込んで課題解決の手法について学ぶ「課題解決インターンシップ」が用意されています。LID生たちは今回の反省を活かしながら、新たな学びのステージに移ります。山積する地域課題を学生の視点で捉え、考え、得た経験は、必ず将来の糧となることでしょう。
次ページでは、実行委員長の小山雄聖さん(人文学部2年)と広報担当の山口穂波さん(人文学部2年)、お2人のインタビューをお届けします。
「大変だったけれど、手ごたえはあった」主催した学生たちに聞いてみた!
広報室(以下、広報) ローカル?イノベーションフォーラム「INNOVATOR HOUSE」、おつかれさまでした!イベントのコンセプトとタイトルに、どんな思いを込めたのですか?
小山雄聖さん(以下敬称略) ズバリ、地域で活躍するイノベーターと学生たちの、アットホームな交流の場にしたいという思いです。
広報 講師のお2人、最高でしたね!本当に楽しかったです。人選も皆さんですか?
小山 そうです!大島さんの講義は1年生(※1)のときから聞いていましたし、LID(※2)の合宿にも来てくれて、学生の相談役のような立場でした。神田さんは、合宿で講演を聞いた人が何人かいて、そのつながりからお願いしました。
(※1:1年生はスタートアップゼミを受講し、2年生からは選ばれた学生が正式な受講生となる)
(※2:ローカル?イノベーター養成コースの略)
広報 今回のイベント全体のテーマは「情熱」と「踏み出す力」、「ファンづくり」だったと聞いています。そこに込めた思いを聞かせてください。
小山 思いを語ったり、誰かの思いを聞いたりすることで、自分の「やりたい」と思ったことに一歩踏み出せる…そんなきっかけを作る場所にできたらと思ったんです。「ファンづくり」はワークショップのテーマで、講師を選定した時に「ファンづくり」が共通するキーワードになるのじゃないかと思い、設定しました。
広報 ワークショップはやってみてどうでした?
小山 実は、どうやって進めたらいいのか、最終的にどこに落ち着けるべきか、直前までスタッフの間でずっと議論が続きました。前日に「これだ!」って勢いで決めたんですけど、やっぱり当日やってみて「どうしよう」と思った場面が正直ありました。ただ、僕たちが思っていた以上に盛り上がり、いろいろな意見も出たので面白かったです!大変ではありましたが、充分に手ごたえも感じました。
広報 フォーラム運営は初めてだったと思いますが、全体を通して苦労した点や反省材料などはありますか?
山口穂波さん(以下敬称略) 参加者が少し少なかったのは反省点です。80名くらいの想定でした。
小山 企画内容がなかなか決まらなくて、広報面でも情報提供が遅れてしまったんです。もっと計画性が必要でした。先生をどこまで頼っていいのか躊躇している間に2カ月くらいが過ぎてしまって。いざ先生に企画を話してみると全部バサバサ切られました(笑)。「何でもっと早く来なかったの?」って言われたりもして???難しかったですね。
山口 あと、全学横断の授業なので主催チーム6名の学生スタッフそれぞれ学部が違い、キャンパスが分かれていたので、1回打ち合わせするだけでも大変でした(笑)。どのキャンパスも松本から往復3時間くらいかかるので???。
広報 タコ足キャンパスはそういうときは大変ですよね。お2人がLIDに参加した理由も教えてください。
小山 僕は長野県の高山村という小さな村の出身なのですが、昔から村のことが大好きでした。人が少ない分、人と人とのつながりが強くて、とても安心感がある村なんです。でも人口はどんどん減っていて、同時に寂しさも…「地域課題だらけ」だと感じていたんです。そんなとき、大学でこの授業のことを知って、自分のやりたいことにぴったりだと思いました。いつか地元に帰りたいと考えているので、高山村に還元できる何かを得たいと思い、このコースを選択しました。ただ、授業でいろいろ学んで「高山村って結構すごいところ」という発見もありました。地元の魅力に改めて気付きました。
山口 私も県内出身ですが、正直「地域課題」についてあまり関心がなかったんです。たまたま1年生のときに受けた授業「スタートアップゼミ」で、地元企業とワークショップで話しあえたことがすごく楽しくて、引き続きこのコースを選択しました。
広報 3年生になると「課題解決インターンシップ」が待っていますよね。
小山 僕は白馬高校と協力した「白馬魅力化プロジェクト」に参加する予定です。
山口 私は地元、南信地区で企業が行っている食育関係のプロジェクトに参加します。
広報 どの地域にも「課題」は満載だと思いますが、今回の経験を活かして頑張ってくださいね!
信州大学「地域戦略プロフェッショナル?ゼミ」4年間の軌跡
「明日の地域をみつける」発刊!
文部科学省?地(知)の拠点整備事業(COC)の一環で、信州大学が2014(平成26)年度から2017年度にかけて実施した地域の人材育成講座「地域戦略プロフェッショナル?ゼミ(通称:プロゼミ)」は、学内外の149人の講師とともに、全153回の実学講座を提供、4年間で194人の修了生を輩出してきました。
講座修了後は、長野県内の様々な地域でプロゼミ修了生同士の交流や協働プロジェクト等が生まれ、そこには大学生達も参加しています。まさに信州全域が、「地(知)の拠点」として機能し始めています。
本書は、このプロゼミの修了生有志と大学関係者らが「編集委員会」を組織し、それぞれの専門性を融合させて制作、ゼミの成果を単なる報告集とするのではなく、ケース?ブックとして今後の教育や地域活動等に役立てていただけるようにまとめています。
「第3回地域をみなおす、うごかす。」地域課題解決プラン公開審査会(2017.12)
入賞3団体のプロモーションビデオ完成!
上記COC事業のプロゼミからスタートした「地域をみなおす、うごかす。」は、県内の様々な地域課題解決を目指す方々に対して、スタート?アップからユニークな切り口で支援を行ってきました。
そして最終年度となる2017年12月に実施した「第3回地域をみなおす、うごかす。」地域課題解決プラン公開審査会は、信州大学との連携協定に基づき、日本ケーブルテレビ連盟信越支部長野県協議会との協働で実施した「長野モデル」とも呼べそうなユニークな事業。
地域で活動する団体や事業者の「セカンドアップ」を支援するため、一般公募で集まった地域課題解決の事業プランを審査するもので、賞品はプロモーションビデオの制作。最優秀賞、優秀賞入賞者となった3団体に対して、地域のCATV各局が、なんと1年間かけてプロモーションビデオを制作しました。信大動画チャンネルでご覧になれます。
第3回「地域をみなおす、うごかす。」 地域課題解決プラン公開審査会受賞者のPVを紹介します。
「七二会に生きる~移住?ソルガム栽培~」
長野市街地から車で約30分、北アルプスの眺望が美しい中山間地、七二会(なにあい)。イギリスと東京出身のスミスさん夫妻は、自然の豊かさや地元住民の温かさを日々実感しながら暮らしています。
七二会では、高齢化による耕作放棄地を減らし、地域を活性化したいと、長野市や信州大学と協力し、イネ科の穀物「ソルガム」の栽培に力を入れています。スミスさん夫妻もソルガムを栽培し、営業するカフェメニューに取り入れるなどして、普及に取り組んでいます。
プロモーションビデオではドローンを活用して七二会の四季折々の自然風景を撮影し、スミスさん夫妻の暮らしやソルガムの魅力を紹介しています。
(第3回「地域をみなおす、うごかす。」地域課題解決プラン公開審査会 最優秀賞受賞の一環で制作)
制作:INC長野ケーブルテレビ 著作:信州大学?日本ケーブルテレビ連盟信越支部長野県協議会