地域の課題を100年先のエネルギーに変えるシンクタンク。産学官金融連携
“自律(立)した地域”を目指し官民をつなぐ─特定非営利活動法人SCOP
30年後には、日本の地方自治体の約半数が消滅しかねない―。そんなショッキングな報道が話題となってから、数年が経ちました。現在進行形で人口の減少、高齢化が進む多くの自治体では、「地方創生」実現のため、さまざまな施策を講じています。
しかし、自治体の力だけでは限界があります。計画策定の基礎となるデータの収集?分析、アイデアの創出、住民との合意形成、広報宣伝など、専門的な技術や知識を必要とするケースも少なくありません。
信州大学発ベンチャー特集第4弾は、“自律(立)した地域”の実現を目指し、地方自治体の政策立案を支援する地方シンクタンクで、全国的にも珍しい社会科学系大学発ベンチャー「特定非営利活動法人SCOP(スコップ)」をご紹介します。
(文?柳澤愛由)
????? 信州大学広報誌「信大NOW」第113号(2018.10.1発行)より
ビジョンは官民が協働する社会づくり
産業振興、観光、地域公共交通、福祉…、地域社会を主なフィールドにするシンクタンクSCOPの業務分野は多岐にわたります。主なクライアントは地方自治体や行政機関。中でもメインとなる仕事が「行政計画(※1)」の策定です。「住民や企業へのアンケート調査や住民との合意形成、新しいアイデアを創出するファシリテーションなどを実施し、ニーズを把握、課題を見極め、行政計画を策定します。ですが、私たちの仕事はそこで終わらないことが多い。計画に基づいたブランディングやプロモーションなど、計画を実行するところまでが、私たちの事業領域です」。そう、代表の鷲見真一理事長は話します。
SCOPのビジョンは、“From government to governance”。直訳すれば、“統治から協(共)治へ”。「協治」とは、行政主導ではなく、国も地方も官も民も、皆対等な関係性を作り、協働して社会課題の解決にあたる、従来とは異なる地域運営のあり方を作り出すことだといいます。
(※1)行政機関が行政活動について定める計画。数年に一度策定される。
あくまでも行政の“黒子”として
近年、注目を浴びているインバウンドの誘致にも、長野県内において先駆けて取り組んできました。これまでに、拠点を置く松本市のほか、長野県、北陸信越運輸局、観光庁などから委託を受け、「外国人観光客が観光する際に必要とする情報は何か」といった調査や、外国人向けコンテンツの開発、外国メディアへのプロモーションなど、さまざまな地域でインバウンド推進のための環境整備を進めてきました。
公共交通の再編もSCOPの得意とする分野です。地方では、民間バス事業者の赤字路線の廃止などが相次ぎ、公共交通事業を行政が実施するケースが増えています。SCOPでは、住民の移動実態の把握や利用しやすい路線設計などトータルにサポート。例えば、松本市の観光客、市民の足として定着している市内周遊バス「タウンスニーカー」の再編も、SCOPの調査?設計が基礎となっています。これまでに、県内の多くの自治体の公共交通に関わってきました。
しかし、これら事業の主体はあくまで行政や地域内の事業者。「私たちは行政の“黒子”のような存在なので、必ずしも名前は前面には出ないんです」(鷲見理事長)。地域でSCOPの名前はよく聞きますが、何をしているNPOなのか意外に知られていないのはそういう理由のようです。
課題解決を図る地域の伴走者
「本当は、SCOPの存在が無くなることが、地域にとっては理想なんですよね」。そう話すのは元SCOPの188bet体育_188bet备用网址員でもある林靖人信州大学学術188bet体育_188bet备用网址院(総合人間科学系)准教授(現在はSCOPの理事を兼務)。SCOPが目標とするのは“自律(立)した地域”の実現。設立間もない頃からのクライアントである長野県塩尻市との関係性は、ある種の理想
形だといいます。
塩尻市からの最初の依頼は、自治体が10年に1度定める「総合計画」の策定業務でした。その後、図書館機能を有した複合施設の建設と構想もSCOPに託されました。
「建設計画段階では反対意見も多く、約2 年間は市民ワークショップなどを重ね、住民との話し合いを継続しました」(林准教授)。そこで得た意見を取りまとめ、取捨選択し、構想を練り上げるのがSCOPの役割でした。そして、平成22年、図書館機能を主軸に、ビジネス?子育て?シニア活動?市民活動の支援など、さまざまな機能を併せ持った、従来にない地域活動拠点施設として、塩尻市市民交流センター「えんぱーく」が誕生しました。今では年間の利用者数約60万人以上。これまでの常識にとらわれないさまざまな役割を持つ公共施設として、県内外からも注目が集まっています。
現在、塩尻市とは、調査や計画策定の委託関係に留まらず、何か“新しいコト”を生み出したいと思った時に連携するパートナーのような関係性を築いているといいます。
15年目の原点回帰。地域と改めて向き合いたい
SCOP設立は、平成13年頃、鷲見理事長が信州大学の大学院生時代に所属していた188bet体育_188bet备用网址室の元へ舞い込んだ、ある自治体からの依頼がきっかけだったそうです。その内容は「大学で『総合計画』の策定と、そのための社会調査を実施して欲しい」というもの。
「その調査に私たち学生が参加したんです。ノウハウがある訳でもなく、試行錯誤。学業に支障を来たすほど真剣に取り組みました(笑)。結果、クライアントの期待値を超えることができた。これは事業化が見込めるのではないかと思い、平成15年、大学が持つ知的資源を地域で活かす事業型NPOを設立しました」(鷲見理事長)。理系分野が多い大学発ベンチャーの中で、全国的にも珍しい社会科学分野での起業でした。翌年、北村主席188bet体育_188bet备用网址員や林准教授が参画。その後、シンクタンクとしての機能を強め、設立から15年が経った現在、職員数は役員含め21名(平成30年8月現在)、売上も初年度の約10倍にまで成長しています。
今後のことを尋ねると「信州大学との連携をもう一度しっかりと築いていきたいと考えています。地域には人材が必要です。私たちがこれまで蓄積したノウハウを伝え、将来、地域で活躍できる人材を1人でも増やせるよう、人材育成に力を入れていきたいと考えています」と、鷲見理事長。例えば、今年度から始まった、信州大学で学び直しながら地方の中小企業への転職を促す「100年企業創出プログラム」。SCOPや信州大学など4法人による連携事業です。「原点回帰していきたいですね。自分たちが良く知る長野県をはじめ、その周辺地域の課題にもっと向き合っていきたいと考えています」と北村主席188bet体育_188bet备用网址員は続けます。
地域の課題に真摯に向き合い続けるSCOP。その眼差しは、100年先の地域の姿をしっかりと見据えていました。