被災現場などで活躍する緊急仮設橋用の「シザーズ構造伸縮パネル」を開発産学官金融連携

信州大学の188bet体育_188bet备用网址シーズを技術移転する 信州TLOとのコラボで制作した、 特許技術「見える化」映像シリーズの第12弾。

今回ご紹介するのは信州大学学術188bet体育_188bet备用网址院(工学系)近広雄希 助教が新たに開発した、縦横に伸縮可能な「シザーズ構造伸縮パネル」に関する特許です。「シザーズ構造」とはマジックハンドのように伸縮できる構造体で、災害時の緊急仮設橋などにも採用されています。補強材を加えることで強度を高めることもできますが、補強材を付けた後は、展開動作ができないという施工性の課題がありました。本技術では補強材も一体となったシザーズ構造パネルを開発することでこの問題を解決。被災した橋や道路の代替路、建設現場の仮設資材、機械分野の昇降機器、宇宙分野で展開する構造物など、現場、状況に合わせた施工性が求められる場所に役立つと期待されています。(文?佐々木 政史)

????? 信州大学広報誌「信大NOW」第149号(2025.1.31発行)より

近広 雄希 (ちかひろ ゆうき)助教

信州大学 学術188bet体育_188bet备用网址院(工学系)

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188bet体育_188bet备用网址分野は、構造工学、橋梁工学。2016年広島大学大学院 工学188bet体育_188bet备用网址科社会基盤環境工学専攻修了。2019年から現職。土木学会「災害時の緊急架設を目的とした緊急仮設橋に関する調査小委員会」(2022年)の副委員長を務めるなど、緊急仮設橋の188bet体育_188bet备用网址と普及に尽力している。

被災時に有効な「緊急仮設橋」ただし施工性に課題も…

昨今の異常気象で、我が国では災害が頻発し、その規模もこれまで以上に大きくなっています。災害で橋が流されることもありますが、その場合、集落が孤立し、救援や復旧に一層の時間を要することになります。

信州大学の近くでは、令和元年、長野県内に大きな被害を与えた台風19号による災害で、20橋を越える橋が被害を受け、人々の生活に影響を与えました。例えば、上田市武石地域では川の増水で橋台背面の盛土が流出し、約270世帯?580人ほどが一時、孤立状態になりました。橋の復旧までにおよそ6日間かかり、そこから水道などの本格復旧がはじまったため、住民の方々は不安な日々を過ごしました。橋はやはり人の暮らしを支える非常に重要なライフラインであり、“命綱”と言えます。

こうしたなかで、被災した橋の替わりになるのが、仮設橋です。仮設橋は大きく分けて、仮設橋?応急仮設橋?緊急仮設橋の3種類があり、緊急仮設橋>応急仮設橋>仮設橋の順で早く架けられることができます。いずれの仮設橋も川幅に合わせた暫定設置ですが、人や物を輸送することができます。

短時間での架設が求められる緊急仮設橋の代表例には、マジックハンドのように縦横に伸縮可能な展開構造を用いた「シザーズ構造」タイプがありますが、強度と施工性の自由度、という点では少々課題がありました。

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災害で道路や橋が流された場合、集落の孤立や救援や復旧に時間がかかる。

構造体と補強材が一体となる新発想で従来の課題を解決

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補強材は伸縮しないので、施工性の自由度に課題があった…。(図1)

「シザーズ構造」はマジックハンドのように、運搬時はコンパクトに折り畳むことができ、設置場所では必要な距離に伸ばせるメリットがあり緊急仮設橋として重宝されます。ただ、従来の構造体のみでは荷重やスパンが制限され、適用範囲を広げるには補強材を設置する必要がありました。また補強材自体は伸縮しないので、補強材設置後は展開動作ができなくなるため、施工性の自由度という点では課題が残っていました。(図1)

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被災した道路や橋の替わりに緊急仮設橋(折り畳み仮設橋)は機能するが…

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新開発のシザーズ構造伸縮パネル(構造模型)。構造材自体が補強材にもなる。

この課題を解消するために、信州大学学術188bet体育_188bet备用网址院(工学系)近広雄希 助教が新たに開発したのが、「シザーズ構造の伸縮パネル」です。構造体と補強材が一体となった新発想のパネルユニットの開発は、施工性を高め、より現場の状況にあわせた「折り畳み橋」が完成します。

この新しいパネルユニットは、長さの異なる3種類の基本部材から構成されており、全ての部材がシザーズ構造をでできているため、全体を折り畳んで長さ調整できます。パネルユニットを連結して全体を長くしたい場合は、例えば大きなシザーズ構造の部材端部を少し延長させた部材を用意し、ユニット間を接続すれば可能となります。従来の構造体では弱点となっていた大きなシザーズ構造の交差部分に生じる力を、補強材として上下?左右に取り付けた小さなシザーズ構造へと分散することができます。これによって、従来の構造と比べた場合、約2倍以上の強度を実現できたとするシミュレーション結果を得ました。現在は、このパネルユニットの基本的性能やシミュレーションとの整合性を実証するために、展開角45度のときに長さ1m程度の小型模型を試作しています。

緊急仮設橋として施工性だけでなく運搬性も重要となるため、軽量なアルミニウム合金材を部材に使っています。

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現在は、このパネルユニットの基本的性能やシミュレーションとの整合性を実証するために、展開角45度のときに長さ1m程度となる小型模型を試作している。

災害時だけでなく、建設や機械、宇宙分野まで幅広い用途が…

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地域の防災力を向上させたい自治体などにも活用いただける特許。

新開発の「シザーズ構造の伸縮パネル」は、被災した橋や道路の代替路としてだけでなく、建設現場の仮設資材(足場やタラップ)、機械分野の昇降機器、さらには宇宙分野で展開する構造物などにも、その技術を活用できる可能性がある(近広助教)」とのこと。

コンパクトな運搬が可能で、現場に合わせた施工性の良さという特性から、中規模の作業現場に適している「当面の開発目標として、緊急車両が通行できる20メートル規模の折り畳み橋の実現を目指している(近広助教)」とのコメントのとおり、小中規模の緊急仮設橋に需要がありそうです。アルミ、FRP、木材などの軽量材料の加工技術を持つ機材メーカーや、防災分野への新規展開を考えている企業、また、災害時に活動する救助隊?消防隊や地域の防災力を向上させたい自治体などに活用いただける特許だと思います。

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本技術に関する知的財産権

発明の名称:シザーズ構造のパネルユニット、伸縮パネルおよびパネル型シザーズ橋

特許番号:特願2022-038977

出願人:信州大学

発明者:近広 雄希

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