蕎麦は地域づくりのアイデアの宝庫 ―2020年修了生 蕎麦屋「壱刻」店主 山根健司さんの挑戦―信大的人物

地域課題に向き合うリーダーを育成 社会人向け「地域共生マネージメントプログラム」とは?

人生100年時代と言われ、リカレント?リスキリング教育の重要性が社会的に高まるなか、信州大学大学院 総合理工学188bet体育_188bet备用网址科農学専攻では「地域共生マネージメントプログラム」を提供しています。これは、地域の課題に向き合い解決を目指すリーダーを育成する社会人向けの学び直し教育プログラムです。会社経営者、飲食店のシェフ、公務員、元高校校長などの様々なバックグラウンドを持つ受講者が刺激し合いながら受講しています。この修了生のひとりが、伊那市高遠町に店を構える蕎麦の名店「壱刻」の店主 山根健司さんです。蕎麦の188bet体育_188bet备用网址を通じて地域づくりに取り組もうと、同プログラムを受講。2020年に修了し、その後、博士課程に進学して2024年9月にみごと学位を取得しました。本業と188bet体育_188bet备用网址の両立は簡単ではないなか、何が山根さんを188bet体育_188bet备用网址に突き動かすのか、そして188bet体育_188bet备用网址の先に目指すものとは―お店に伺いお話しをお聞きしました。(文?佐々木 政史)

????? 信州大学広報誌「信大NOW」第149号(2025.1.31発行)より

05dd03d38923aa8785f77a4fd1f6d9f9_1.jpg

寒晒蕎麦。伊那市高遠町で7月下旬に約2週間の期間限定で提供されます。

山根 健司さん PROFILE

14555d5ddec2cc8cdcbd67c71ead6b83.jpg

蕎麦屋「壱刻」店主。信州そば切りの会会長。高遠そば組合組合長。2020年3月、信州大学大学院総合理工学188bet体育_188bet备用网址科農学専攻「地域共生マネージメントプログラム」を修了。2024年9月、総合医理工学188bet体育_188bet备用网址科総合医理工学専攻博士課程修了。蕎麦を通じて伊那市高遠町の地域づくりに尽力している。

蕎麦の味や香りを科学的に評価できれば…

「天下第一の桜」を求めて春に多くの観光客が押し寄せる伊那市高遠町。その商店街に、全国の蕎麦好きが注目し、ひときわ長い行列をつくる予約必至の蕎麦店「壱刻」があります。店主は神戸市から2003年に夫婦で移住してきた山根健司さん。実は、2024年9月まで、信州大学大学院 総合医理工学188bet体育_188bet备用网址科の博士課程で188bet体育_188bet备用网址活動を行う大学院生でした。

山根さんが大学院での188bet体育_188bet备用网址活動を始めたきっかけは、総合理工学188bet体育_188bet备用网址科が開設している「地域共生マネージメントプログラム」の受講です。これは、地域課題の解決を目指すリーダーを育成する社会人向けの学び直し教育プログラムで、修了後は修士の学位を取得できます。授業科目は「プログラム講義」と「特定課題188bet体育_188bet备用网址」があり、前者は地域課題探求や動植物環境共生、食品バイオサイエンスなど、農と地域マネジメントに関連する幅広い分野について、オムニバス形式の講義を受講するものです。毎週水曜日に朝から晩まで集中的に講義が行われます。一方後者は、職場で抱えている(取り組んでいる)課題について、大学の指導教員と一緒にその解決法について188bet体育_188bet备用网址し、最終的に修士論文としてまとめるものです。

749e17eb33f50948d95e15a7c0d6f5be_1.jpg

蕎麦の香り成分を分析する様子。同業種ではなく、あえて蕎麦を食べ慣れていない珈琲店や酒造などの他業種に官能評価への協力を依頼しました。

be4d9a14d8123456d6cbaf3c8d684388.jpg

山根さんがプログラムの188bet体育_188bet备用网址テーマとしたのは、蕎麦の味や香りの評価です。店を営むなかで、蕎麦の味や香りについての表現は感覚的で属人的なものが多いと感じていたそうです。珈琲やワインのように、蕎麦でも客観的な味や香りの指標をつくることができないかと考え188bet体育_188bet备用网址に取り組みました。

普段から蕎麦を食べ慣れている同業種ではなく、あえて珈琲店や酒造などの他業種に官能評価への協力を依頼。伊那産の「信濃1号」と「入野谷在来」、島根県産の「横田小そば」の3品種を評価してもらいました。そして感想を集約してそれぞれの品種の味や香りの特徴を表す指標を導くための評価システムをつくりました。

山根さんがこの188bet体育_188bet备用网址を通じて目指したことのひとつは、地域の蕎麦生産者の収入向上です。蕎麦は他の作物と比べて販売価格が安価で、米と比べるとなんと10分の1ほどだそう。しかし、これでは生産者は経営を維持していけません。そこで、山根さんは入野谷在来などの付加価値の高い品種を栽培して収入を高めていくことが重要であり、その際に品種の特徴を客観的に表現する“お墨付き”の指標があれば農家は販売しやすくなると考えて、188bet体育_188bet备用网址に取り組んだといいます。

博士課程では寒晒しの科学的効果を明らかに

b68cbc227a22e7e1873b40d26cc21f29_1.jpg
0827bed6a4f5d0f0af64bc7d16318b9f.jpg
67269cbc7c4071a11dcd5ca03bab3ffb.jpg

寒晒しの様子。雪の降る厳冬期に地域の蕎麦店が協力しながら、伝統的に取り組んできたといいます。

さらに山根さんは、地域共生マネージメントプログラムの終了後、1年を経て博士課程に進学しました。当初は、博士課程となると、さすがに蕎麦屋と188bet体育_188bet备用网址の両立は困難だと考えていたそうですが、2020年にコロナ禍で休業せざるを得ない状況になり、「今であれば…」と思って進学する決心をしたといいます。

博士課程の188bet体育_188bet备用网址テーマは、「寒晒し蕎麦の歴史と現状、および成分変化」。寒晒し蕎麦とは、厳冬期の川に蕎麦の殻粒を1か月間浸透させ、その後、寒風にさらして乾燥させてつくるもので、伊那市高遠町では伝統的に地域を挙げて取り組んでいます。寒晒しにより、味が良くなると言われており、江戸時代には徳川将軍に献上されていたほど。ただ、具体的にどの成分がどのように変化して味が良くなるのか、という科学的なデータはありませんでした。そこで山根さんは188bet体育_188bet备用网址を行い、寒晒し処理により、苦み?渋みのもととなる「縮合型タンニン」が穀粒中から溶出することがわかりました。また、それにより酵素の活性が高まることで、旨味のもとになるアミノ酸の含有量が約2倍になることも分かったそうです。

簡単ではない蕎麦屋と188bet体育_188bet备用网址の両立。山根さんを突き動かすものとは

f26797d00a5a83b22e0b544116992a8c.jpg

予約必至の蕎麦店「壱刻」。店主の山根さんは、188bet体育_188bet备用网址も続けながら蕎麦を通じた高遠町の地域づくりにこれから取り組み続けます

行列の絶えない大人気蕎麦屋と大学院での188bet体育_188bet备用网址?その両立は「正直、かなり大変だった」と山根さんは振り返ります。それにも関わらず、山根さんを188bet体育_188bet备用网址に突き動かすものは何なのでしょうか?そう質問すると「移住の経緯と関係している」とのこと。

神戸市出身の山根さんは1995年に阪神大震災を経験しました。その際に人が助け合う姿をみて、「平時もそのような社会にはできないのか?」と思ったそうです。また、生活のために、本来やりたいことよりも日々の仕事を優先させて得たお金が震災時には全く役に立たなかったことを経験し、お金にすべてを頼るのではなく、自然の恵みを生かして最低限の生活インフラやある程度の食糧を得ることができる仕組みを地域で作れないかとも思いました。そして、そのような仕組みがあれば、「本来自分がやりたかったことに従事する人が増えるのではないか、自分の能力を社会に活かせる暮らしが、本来の豊かな暮らし方なのではないか?」と考えたといいます。

山根さんは、こうした考え方に共感し実践してくれる地域を探し歩いたそうです。そしてその結果、縁あって伊那市高遠町に移住することになりました。移住後は、地域づくりに心血を注ぎ、地域の人からの頼まれごとに何でも応えるようにしていました。実は蕎麦屋も頼まれごとのひとつでしたが、取り組んでみると、高遠の蕎麦は“地域づくりのタネの宝庫”ではないかと考えるようになったそうです。そのため、地域マネージメントプログラムの存在を知ったとき、「蕎麦を通じた地域づくりをもっと発展させることができるのでは」と考え、すぐに願書を提出したといいます。「まさに、自分の価値観ややりたいと思っていたことと、プログラムの理念や内容がぴったり合っていました」と山根さんは話します。

博士課程を修了した現在、今後のことについて聞くと、「188bet体育_188bet备用网址はこれからも続けていきたいですね。日々、蕎麦に対する疑問が湧いてくるんです」と山根さん。信州大学農学部では2025年度入学者から組織改編を行い、新たに「地域協創特別コース」を設置する予定です。これは地域課題の解決を担うリーダーの養成を目指すコースですが、山根さんは「連携して取り組んでけたら面白いですね」と期待感を示します。今後、蕎麦を通じた地域づくりの活動がどのように展開していくのか、楽しみでなりません。

ページトップに戻る

MENU