わからないからおもしろい 謎のコズミックレイを追いかけて信大的人物

“コズミックレイ”…日本語で「宇宙線」とも呼ばれ、宇宙から飛来する放射線のこと。微弱なコズミックレイは手のひらを広げると１秒間に１個の頻度で宇宙から地球へ降り注ぐ一方、非常に高いエネルギーを持つものが極めてまれに存在するらしい。その特殊なコズミックレイは、銀河磁場の中でも直進できるほどのエネルギーを持っているため、起源天体の解明が期待される一方、飛来頻度の低さゆえにいまだ謎も多いのだとか…。信州大学学術188bet体育_188bet备用网址院（工学系）の冨田 孝幸 助教に観測実験の様子や普及活動についてお話を伺ってきました。（文?平尾 なつ樹）

?????　信州大学広報誌「信大NOW」第147号（2024.9.30発行）より

極めて高いエネルギーを持つコズミックレイの飛来はまれであり、それを確実に観測するためには、より広大な実験場、多くの望遠鏡、検出器、そこで働く人々の力が必要になります。そのため冨田188bet体育_188bet备用网址室では、高いエネルギーを持つコズミックレイを観測するための国際共同実験「テレスコープアレイ」実験に参加しています。2008年に始まったこの実験は、アメリカのユタ州にて、アメリカ?ロシア?韓国?ベルギー?台湾、チェコ?ポーランドの7か国と共同して行っているもので、日本とアメリカがホスト国となっています。

冨田助教は、この組織の国際執行部に選定されており、188bet体育_188bet备用网址室の学生と共にたびたび現地を訪れています。日本で週２回行っている現地スタッフとの情報交換の場では、学生自身が英語を用いて指示を出すほか、2カ月に一度行っている、他大学（東京大学?大阪公立大学?大阪電気通信大学?神奈川大学?中部大学）との会議でも学生が発表しているといい、「情報を正確にまとめて伝える能力がいやでも身につくと思いますね」と冨田助教。

この「テレスコープアレイ」実験にて2021年5月、世界における観測史上2番目に強いエネルギーを持つコズミックレイを検出することに成功しました。そのエネルギーは、244エクサ電子ボルト（2.44×10の20乗電子ボルト）という極めて高いものであり、この成果は科学雑誌「Science」のオンライン版にも掲載されました。

ただ、観測されたコズミックレイは予想に反して銀河間の天体が少ない方向から到来したものであり、なぜそのようなところから超高エネルギーを持つコズミックレイが飛んできたのかは未だに解明されていないのだといいます…。しかし冨田助教は「わからないからこそおもしろいです。わからないことを怖がっていたら発展しないですからね」と笑顔で話します。

一般認知度は決して高くない「コズミックレイ」ですが、その測定技術は、実は他分野の様々な場面でも役立てられています。例えば原子炉内部調査や、ピラミッドの回廊の発見など、人間が直接その中に入って調査できない場面で、この技術が活用されてきたといいます。

コズミックレイ＝「宇宙線」といっても、同じ音をもつ“宇宙船”の方がはるかにメジャーであるため、「宇宙線」という単語を日本で普及させることは難しいだろう―そう考えた冨田助教は宇宙線ではなく「コズミックレイ」という言葉を使い、その普及を目指して、他大学の仲間らと共に「コズミックレイを一般語にする会」を発足させて活動を行っています。

その１つが、コズミックレイを体感できるVRソフトの開発です。これを使うと、コズミックレイが引き起こすエアシャワー現象（大気中で大量の2次粒子が生成され、シャワーのように降り注ぐ現象）を視覚的に体験することが可能です。VRゴーグルを掛けて信州大学工学部の屋上から空を見ると、あちこちでエアシャワーが降り注いでいる様子を疑似的に見られる仕様になっています。このVRソフトは、他大学や小学校の授業、イベント等に貸し出し、冨田助教自ら出張講座も行っているほか、佐久市子ども未来館ではこのソフトを常設展示しており、多くの子供たちがコズミックレイに触れ、興味を持つきっかけを創出しています。

こうした活動を通し、コズミックレイの認知度が高まることで、「それを188bet体育_188bet备用网址したいと思う学生が増えてほしい」と話す冨田助教。普及活動が花開き、188bet体育_188bet备用网址の裾野が広がったその先には、コズミックレイの謎が解き明かされる日が待っているかもしれません。