あの「1秒タオル」を作った、 感性工学1期生のDNAとものづくり。信大的人物

ホットマン株式会社 代表取締役社長 坂本将之 (繊維学部卒業生)

東京都青梅市にある創業150年を超える老舗タオルメーカー ホットマン株式会社。国内タオル業界で唯一、自社で製造から販売まで行い、非常に吸水性の高い「1秒タオル」で有名です。志を持っていきいきと活躍する信大同窓生を描くシリーズ第11弾は、そのホットマンの社長に38歳という若さで就任し、同社を率いる坂本 将之さんをご紹介します。
坂本さんは信州大学 繊維学部 感性工学科の第1期生です。ホットマンでのものづくりに坂本さんの感性工学科のDNAがどのように息づいているのか――。信州大学広報スタッフ会議 外部アドバイザーで、ブランドア(株)代表取締役(元電通)の藤島 淳さんがお話しを伺いました。(信州大学広報室)

坂本 将之さん PROFILE

1976年岡山県生まれ。信州大学繊維学部 感性工学科の第一期生。卒業後、梅花紡織株式会社(現?ホットマン株式会社)に入社。本社工場長、商品部長を経て38歳の若さで社長に就任。以来、「お客様の快適で心豊かな生活に貢献する」という企業理念に基づき、信州大学と共同188bet体育_188bet备用网址も行いながら、10年にわたりホットマン株式会社を率いる。


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インタビュアー
信州大学広報スタッフ会議 外部アドバイザー
ブランドア株式会社 代表取締役 (元電通)

藤島 淳 氏

1. 日本唯一の“繊維”学部、一択! 岡山から信州へ

藤島 淳 氏(以下、敬称略):岡山県から信州大学に進学されたそうですね。その経緯を伺えますか。

坂本 将之 社長(以下、敬称略):私、とにかくジーパンが大好きなんです。社長という立場になるまで、入社してから15年間ずっと会社にはジーパンを履いていったくらい。
高校時代に古着がとても流行っていて、それでジーパン好きになりました。「とにかく格好いい!」と思って古着屋さんに通っていて、ある時、1本100万円の額に飾られたビンテージを見ていた時に、ふとこう思いました。「一般的なものはボロボロになったらポイって捨てられるのに、ジーパンは何十年も前のものが格好よくなっていくっていうのはすごいな」って。歴史を重ねて、人の人生が刻まれて、なお格好よくなっていくっていうことに対して、とても興味が湧いてきて、もうとにかく大学ではジーパンの勉強がしたいと思ったんです。
今と違ってインターネットなんてない時代ですから、必死で色々と調べて、信州大学 繊維学部に行き当たりました。もしかすると、ジーパンの勉強もできるんじゃないかと勝手に思って。もう、繊維学部の一択でしたね。

藤島:それで、実際にジーンズについての授業はあったのでしょうか。

坂本:全くなかったですね(笑)。それはそうだと頭を切り替えました。

藤島:信州の大学生生活はいかがでしたか。

坂本:特に嬉しかったのは雪ですね。岡山県南部の出身なので、雪って本当に降らないですし、降ってもすぐベチャっとなって積もるなんてことはまずないんですが、信州大学に入学した4月に雪が降ってけっこう積もったんですよ。
登校途中におばあちゃんが雪かきしているのを見て、「ちょっと変わってください」と手伝うくらい、雪が嬉しかったですね。

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2. 感性工学という斬新な学びの1期生として…

藤島感性工学科の第1期生として最初の1年間は教養課程で松本キャンパスでお過ごしになられて、2年生からは上田キャンパスに移られたと。感性工学科を選んだのはどうしてですか。

坂本:感性工学は心理学や大脳生理学などの観点から、人の感覚?感性と工学的なものを結びつけるっていうことが、学部案内の説明資料に書いてあって、私はもともとそういう分野にちょっと興味があったので、これは面白そうだなと思って選んでみたという感じですかね。

藤島:感性工学の第1期の学生は何人くらいだったんですか。

坂本:たしか入学時は40人~45人くらいだったと思いますね。

藤島:記憶に残っている授業はありますか。

坂本:やっぱり高校生の時には全く触れることがなかった大脳生理学とか心理学は純粋に面白かったですね。

藤島:坂本さんは感性工学科の第1期生なわけですが、授業はどのような感じだったんでしょうか。

坂本:当時は、感性工学という新たな学問分野をどのように育てていくか、先生も試行錯誤でしたね。私の方は、とにかく広く様々なことに取り組めたので、とても充実していました。例えば、屋外に出て絵を描く授業もありましたが、一般的な大学生は授業でそのような機会はあまりないと思いますので、面白かったですね。

藤島:今の職業において、感性工学を学んだことの意味や意義をどのように感じておられますか。

坂本:意味や意義は相当大きいと思います。我々の会社はタオルメーカーですが、製造業は得てして、やっぱり技術を見せつけたいとか、他社がやれないことをやりたいというところに、意識が行きがちなんですね。
私たちも、もちろんそのようなことは大切にしていますが、やっぱり結局は「使う人にとってどうなのか」っていうところが重要だと思うんです。この点について、私の場合は敢えて改めて考えなくても、すでに当たり前に意識している部分があって、それは感性工学を学んだことが大きいと思います。
また、感性工学は「良いものを良いと判断できる力」を養う学問であるとも言えると思うんですが、そのような力はものづくりにとって重要ですので、感性工学を学んでいて良かったなと思っています。

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ホットマンのタオル製造工場。
坂本さんは社長になった現在でも、現場でのものづくりが大好きだという

3. 製造から販売まで行うものづくりメーカーは無いか?

藤島:今、会社のお話をいただきましたが、学生にとって就職は一つのとても大きな山を越えるようなものだと思います。坂本さんが就職の時にどういった選択をして今のホットマンに行き着いたのか、その辺りの就職体験のお話をいただけますでしょうか。

坂本:私が就職活動をしたのは、ちょうど大不況の頃でした。数十社受けても1社も決まらない学生もいるような時代ではありましたが、私はあまり悲観的には考えておらず、「何とかなるでしょう」というぐらいに思っていたんです。好きなジーパンに携わることも一瞬考えたんですけれど、趣味と仕事は分けたいと思いました。趣味は自分が喜ぶためのもので、仕事は誰かを喜ばせるためのものと。
それで、指導教授に何がやりたいんだと問われた時に、ものづくりと販売に興味があったので、その両方をやってたら何か面白いことできるんじゃないかという話をしました。最初は「そんなところあるはずないだろ」と一刀両断されましたが、しばらく考えて「…1社だけあるぞ」と。「どこですか?」と聞き、紹介してもらったのがホットマンでした。
当時、タオルという商品自体には興味がなかったのですが、ものづくりと販売を両方手掛けている点が「面白そうだな」と思って、東京都青梅市の本社に見学に行きました。
会社から徒歩5分で天然の蛍が飛んでいるようなところで、自然が好きだったので、この環境だけで「もうなんかここいいな」って気に入りました。また、よくよく真剣に考えてみてると、タオルって生まれてから亡くなるまで1日たりとも使わない日がないもので、こういう生活に密着したものって面白そうだなと思い、就職しました。

藤島:最初の配属はどのような部署に?

坂本:タオルを織る部署ですね。もちろん機械が織ってくれるんですけど、何かトラブルがあったら直すという仕事をしていました。うまく直ると快感で本当に達成感がありましたね。あと、負けず嫌いなところもあったので、直すスピードでも負けたくないと張り切っていました。一度、染色工場に異動しましたが、また織り工場に戻りました。

藤島:こうしたなかで工場長になられるんですね。

坂本:日本では一般的にタオルの製造は各工程を各会社が行う分業制ですが、当社はすべての工程を自社で行える仕組みを持っています。すべての製造工程を複合的に見る工場長という職には責任の重さを感じていました。また、ものが生まれる最前線である現場が好きでしたので、正直、管理職は気が進みませんでしたが、ある時から自分が現場に行きたいではなく、自分と同じようにものづくりが楽しいと感じる人を増やしていかなければ会社に未来はないと考えるようになり取り組みが変わりました。

藤島:ホットマンの特徴として、製造から販売まで一気通貫でやってらっしゃるということがあるわけですが、販売の最前線の現場に立たれたことは?

坂本:販売に配属されたことはないですが、セールの応援で店頭に立つことはありました。その時に、お客様から「本当にこのタオルが大好きで、ずっと使っていて、こんなに良いタオルはない」といったお褒めの言葉をいただいたことがあったんですが、そのタオルが普段自分が工場で製造に携わっているタオルだったんです。
当時の私は、製造のスピードアップや効率を高めることに仕事の意義を感じていましたが、このお客様からの言葉をいただいて、「普段自分が作っているものでこんなに喜んでもらえるんだ、もっと良いものを作りたい」という意識が、本当に芽生えましたね。そして、こうした経験ができたのは、製造から販売まで一気通貫で取り組んでいるホットマンならではと言えるでしょうね。

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4. 豊かで快適な生活とは何か…人の五感+時代の変化に合うこと

藤島:今回、私もホットマンの売り場に改めて行ってみたんですが、タオルがとても美しく置いてあることが印象に残りました。

坂本:とにかく美しく見せることは、会社を挙げて意識して行っています。日用品でありながら、生活が豊かになるようなものを、提案したいと考えているからです。そしてそれは「お客様の快適で心豊かな生活に貢献する」という私たちの経営理念に基づいています。ただ、快適さや、心の豊かさというのは、ある意味ふんわりした言葉であって、一度定義したらずっと変わらないものではありませんよね。時代に合わせて変わっていきます。ですから、経営理念は変わりませんが、その中身は常に見直すように心掛けています。

藤島:それは重要なことですよね。

坂本:そうしないと競争に勝てないというか。私たちのタオルは一般的なものではないんですよね。東京で作る以上、価格では海外や国内の他メーカーには到底勝てないので、やっぱりニッチなところを目指しています。その中で、会社の理念である「快適で心豊か」って何だろうと考えたときに、感性工学とも関わってきますが、人の五感に訴えることと、時代の変化に合うことではないかと思っています。
そのために、まず重要視しているのが、「機能的価値」です。それは、私たちのヒット商品のひとつである「1秒タオル」に代表されるような吸水性と肌への優しさです。
加えて「情緒的な価値」も重視しています。今の時代には特に安心感や信頼が求められていますので、「青梅市で150年間タオルづくりを続けている会社」ということを訴求するようにしています。
さらに、「社会的価値」も重要です。SDGsを含めて持続可能な社会に対応しているかという部分も、お客様が心の豊かさに関連して重視する部分ですので、工場で出る織りクズ、糸クズなどのゴミは焼却処分せずに、全て固形燃料に変えるなどして再利用しています。

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5. 15年間ジーパンで通った会社から ある日、社長になれと言われて…

藤島:坂本さんは、社長になられて何年になりますか。

坂本:ちょうど10年ですね。
就任時は38歳で、商品部長としてマーケティングの分野に取り組み始めているときでした。

藤島:10年やられていると、時代も変わってきましたよね。フェアトレードとかサステナブルという方向にどんどん舵を切っています。

坂本:フェアトレードに関しては、私がまだ工場長の頃に当時の社長に「社会的な価値を高めることにも繋がりますよ」とプレゼンをして会社として取り組みを始めました。きっかけは、毎日使用しているコットンに途上国から搾取するようなものがあることを知ったことです。それまで考えたこともなかったのでショックで、これは絶対何とかしなきゃいけないと思いました。それから社員への勉強会も実施しています。フェアトレードが実益につながる点も含めて伝えており、社員が納得感を持って取り組めるようにしていきたいと考えています。

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6. “究極のタオル” を目指し10年にわたる信大との共同188bet体育_188bet备用网址

藤島:信州大学繊維学部 先進繊維?感性工学科の上條正義 教授との共同188bet体育_188bet备用网址にも取り組んでいますよね。

坂本:10年以上取り組んでいるのですが、スタートの時から内容も少しずつ変わってきていて、現在は吸水性の高さをどう指標化できるかを188bet体育_188bet备用网址しています。
既存の吸水試験方法にはJIS規格で定められている3つの方法がありますが、これらは「多量な水を与え続ける状況下での吸水性」を評価するものです。一方で、皮膚や髪の毛の表面に付着する微量な水分の「吸い上げやすさ」が優れていればいるほど、人は拭い心地が良いと感じられます。人の感性に関わる部分ですね。しかし、こちらについてはまだ試験方法がありません。ですからその方法を確立したいと考えています。
あと、糸をつくる近藤紡績所とタオルに適した糸の「撚り方」を188bet体育_188bet备用网址しています。同じ原料でも撚る回数を変えることで、吸水性と拭い心地にどのような差異が生じるのかを数値化も含めて取り組んでいます。タオル業界としても新たな指標を作ることができるかもしれないですし、紡績業界としてもタオルに一番適している糸の撚り方を、エビデンスを伴って伝えられるようになります。

藤島:いつか共同188bet体育_188bet备用网址の成果として“究極のタオル”みたいなものが開発される可能性もあるのでしょうか。

坂本:ぜひ、やりたいですね。

藤島:一方で、これまで共同188bet体育_188bet备用网址をされてきた中で課題に感じられていることはありますか。

坂本:やっぱり人による感覚の差が大きいというところですね。みんなが心地よいと感じるようなものがあれば良いのですが、柔らかいタオルが好きな方もいれば、しっかりとした肌触りが好みの方もいます。こうしたなかでも、何か指標のきっかけになるものは作れるんじゃないかと考えて、188bet体育_188bet备用网址を続けているところです。

7. 本物は嘘をつかない…ブランドは信頼。常に誠実であれ。

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インタビュアーの藤島氏は、ホットマンのマイハンドタオルを持参。その使い心地の良さを坂本社長に伝えた

藤島:ホットマンのものづくりについて、「本物づくりに徹し、創造を重ねる」というフレーズを目にしたことがあります。坂本社長が考える本物とはなんでしょう?

坂本:まずは嘘をつかないこと。つまり、「誠実」ということです。そうあり続けないと、ブランドはブランドでなくなります。ブランドって信頼が根底にあると思っているので、売れることを第一に考えるのではなく、やっぱりお客様のためを思って誠実に作り続けたものが本物なのだろうなと。

藤島:ホットマンが目指す方向も今お話しいただいたようなことなのでしょうか。

坂本:そうですね。私が代表を務めている間は変わることはないと思います。

藤島:最後に、これから繊維学部の感性工学を目指してみたいという若い人たちへのメッセージをお願いできますか。

坂本:「自分の感性を大切にして、それを磨いてください」と、心から思いますね。それぞれが違っていて、それぞれが本当に自分にしかない感性を持っている。それはすごく素敵なことであり、その感性を磨いていくことが一番重要なのかなって思います。感性工学科では、そのような感性を指標化なり、形にしていくことにつなげようとするわけですが、それってすごく面白いことだよっていうことは伝えたいですね。

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坂本さんの人柄と、ものづくりに関する深い話に、信州大学インタビュアーは感動しきり

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