全学横断特別教育プログラム履修生に聞く。03信大的人物
環境マインド実践人材養成コース -持続可能な社会づくりを学ぶ- 農学部 農学生命科学科 植物資源科学コース 3年生 柏木まえさん
持続可能な地球環境を実現していくためには、ローカルとグローバル、両方の視点を持った思考力や行動力が大切です。「環境マインド実践人材養成コース」では、地域に根差した活動と海外での実践演習を通じて、実社会で活躍できる人材育成を目指しています。修了者の柏木まえさん(農学部 農学生命科学科 3年生)に、乗鞍高原とマレーシアで得た学びや気づきについて伺いました。(文?平川 萌々子)
????? 信州大学広報誌「信大NOW」第152号(2025.7.31発行)より
実践力を持った人材やアントレプレナーを育成する信州大学独自の教育プログラム 全学横断特別教育プログラムとは
信州大学には、様々な学部の学生が一緒になって横断的に学べる独自の「全学横断特別教育プログラム」があります。
学部?学年を超えたコースに所属し、「地域」「世界」「環境」「データサイエンス」「AI活用」の未来を考える力やアントレプレナーシップ(起業家精神)を学ぶ特別な教育プログラムです。
他学部の同期生や先輩と交流しながら、地域や世界で先進的な取り組みをおこなう人達からリアルな課題を学びます。どのコースも実践型が特徴で、現場の中で必要な問題分析や課題設定スキル、アイデア創出やコミュニケーションスキルなどを身につけることができます。
世界視点で“本物の環境マインド”を学ぶ
2015年に国連サミットで採択されたSDGsにもあるように、環境問題は一国で解決できるものではなく、経済や労働、人権といった事柄とも密接に関わり、世界各国と連携していくグローバルな視点が求められます。
信州大学では約30年前から環境マインドの育成に関する取り組みを始めており、学生主体の「環境学生委員会」などを通じて、独自の環境マネジメントシステムを実行しています。そして2019年からスタートしたのが「環境マインド実践人材養成コース」。座学だけでなく実践演習を通じて、“本物の環境マインド”を持った人材の育成に取り組んでいます。
同コースの1年次に開講される「環境マインド実践基礎論」では、県内企業?行政機関の実践者による講義が設けられています。そして2年次には、大きな特徴である「ローカル編」と「グローバル編」の実践演習が始まります。地域密着型の活動ともいえるローカル編では、乗鞍高原をフィールドに、複数のテーマに分かれて調査を行います。柏木さんは外来植物をテーマに、現地で活動する環境省のレンジャーと外来植物の除草作業、来訪者へ環境に関するアンケート調査などを行いました。
実際に現地に行ってみると、外来植物の侵入を防ぐため、靴に付着した種子が入らないよう靴底マットを設置するなどの対策が取られており、実際にその効果を確認することができたそうです。アンケート調査の結果から、レンジャーの活動の情報発信や外来植物の生息エリアを示すマップの必要性などが分かり、その内容は最終的に調査で関わった方々へ提案発表を行ったそうです。
現場と疑問を持つこと その大切さを実感
同コースの集大成となるのが2年次後期のグローバル編で、柏木さんはマレーシア?サラワク州へ演習に行ったそうです。「エネルギー政策」、「野生動植物保護」、「国立公園運営」などから、それぞれが関心のあるテーマに分かれて事前学習と現地調査を行います。柏木さんは「パーム油」をテーマに生産工場を訪問し、生産過程を見たり現地の方とディスカッションを行いました。食品やバイオ燃料などに使用されるパーム油は、世界的な需要の高まりから、違法な開拓による熱帯雨林の破壊などが問題視されています。一方で、訪問した工場では油の生成後に残る搾りかすを発電に利用したり、微生物を活用して排水を浄化するなど環境配慮の取り組みが進んでおり、驚いたそうです。
「自分の目で見ること。そして鵜呑みにせず批判的に考えることの大切さを実感した」
そう柏木さんはコースでの学びを振り返ります。例えば、環境に配慮したと謳っている商品やプロジェクトであっても、資源調達や製造工程の段階で環境への悪影響がないか、あるいは過剰な宣伝ではないかというような疑問を持つことが環境問題を深く理解し、改善していくために欠かせない視点だといいます。
また、「環境問題は自分の専攻分野の植物に関連することが多く、ゼミ配属前に高山地や海外で異なる植生を見たり、様々な調査手法を学ぶことができて良かった」と嬉しそうな様子で話し、この経験が専門分野の考察の幅に広がるのではないかと感じているそうです。
卒業後、柏木さんは母校の農業高校で教員になることを目指しています。農業と環境問題は密接に関わっているだけに、ここで培った知識や経験を伝え、生徒たちが進路を考えるうえでのきっかけを作れたらと明確な目標を見据えて励んでいます。